介護保険制度が始まったのは2000年(平成12年)。すでに15年以上経過していますが、いまだに国民の本音は「できる限り老人ホームには入居せずに自宅で暮らし続けたい」というものです。
なぜなら、老人ホームに入居してしまうと今まで自宅で普通におくってきた生活がおくれなくなるから。友人を自由に呼べない、自由に外出できない、好きな時間に起きて、寝て、お酒が飲めて…。そういった「普通」の生活が制限されてしまうのです。
これで良い訳がありません。状況を変えるためには、次のような施設経営が求められているのです。
- 介護のプロとして利用者の希望を叶えることが求められる
- 徹底的なアセスメントが重要
- 希望を叶えるまでの具体的な手法の紹介
では、一つずつお伝えしていきます。
目次
やりたいことの実現が本当のプロ!その具体的な方法とは?
老人ホームのスタッフは介護で賃金をもらっている、いわば「プロ」です。誰でもできるような介護をするわけにはいきません。
この一番の近道が「入居者が“やりたい!”と思っていることを、専門的な知識と技術を活用して実現させる」ことなのです。ただ「やりたいこと」は人それぞれ。まずは「何をやりたいのか」を聞き取りましょう。
中には、重い後遺症などでやりたいことなんて見つからない、という人もいるでしょう。その場合には、どんな日常生活をおくってきたのか生活歴を家族等から聞き取ります。
例えば、次のような例があります。
- 夏は毎年、地域の夏祭りに出るのが楽しみ
- 毎朝、犬の散歩をするのが日課
- 朝は好きな時間に起きて、朝食は必ずパン。昼食は抜くこともあって、夜は毎日晩酌。ナイター中継を見てから寝る
- 掃除や調理などの家事は自分の役割。近所の友人と空いた時間におしゃべりするのが好き
やりたいことの実現を目標に掲げたら、そのために何が障害になっているのかを多職種協働の基で専門的に分析します。そして、課題となっていることを一つずつ、クリアしていくのです。
想定される課題と解決策とは?
夏祭りに出ることが目標
例えば、脳梗塞の後遺症で半身麻痺だった場合、車いす等で出なければなりません。また、昼間ならまだしも夜の祭りの場合には、体調も大きく左右します。
車いす等の移動は介助すれば良いのですが、体調管理はナースの仕事です。屋台のものは食べられない場合には食事を持参する必要がありますが、できる限り屋台で調達したものを食べられる工夫を、栄養士など厨房スタッフが実施します。
またその状態で夏祭りに参加できるかどうか、参加できるならどんな配慮を払う必要があるのか、また払ってもらえるのかなどを、相談員等が家族も踏まえて主催者側と打ち合わせを行います。
要は、実現させようとした時に想定される課題を、どれだけ事前に拾い出し、解決策を練った状態で臨めるか、ということなのです。
好きな時間に起きたいし、毎日晩酌したい
好きな時間に起きたい人には、個別ケアを実施する必要があります。施設側が提供する朝食には間に合わないことが想定されるので、フロアやユニットのキッチンなどに、パンやシリアルなど手軽に食べられるものを準備しておきます。
晩酌については、医療職が許可してくれる範囲でアルコールをユニットに用意しておくことができます。依存症じゃない限りは、他人に迷惑をかけない量を飲めるように支援できるでしょう。
日常生活を続けられることで得られる数々のメリット
入居するまでに行ってきた日常生活を続けることには、いくつかのメリットがあります。
- 脳が刺激を受け活性化され「老いる」速度を遅くする
- 目標を持ち続けることができ、生きる希望を抱き続けられる
- 希望をかなえていくごとに、スタッフとの信頼関係が構築される
このようにすれば、家族からの信頼を得て、多少の事故やヒヤリハットがあったとしても、クレーマー化されずに済みます。そして何よりも、地域の中で「あの施設だったら入りたい!」と選んでもらうことができるのです。