介護や看護の現場で使われる不穏とは、患者や利用者が落ち着きがなく、興奮状態になったり、不安定になる状態のことを言います。普段の生活では穏やかで静かな人も、不穏になると突然暴れだしたり、落ち着きがなくそわそわとします。不穏の原因は環境の変化、身体的・精神的苦痛、持病などさまざまです。患者や利用者が不穏になった場合、まずは落ち着かせることが大切です。丁寧な対応を心がけ、気持ちに寄り添うよう対処を行います。
目次
不穏とは
もともとの意味は、「穏やかでないこと」を指します。介護や看護の現場では利用者の状況によって以下の行動があげられます。
不安定で危険な状態のこと
利用者や患者が身体的や精神的、生理学的な要素が原因で不安定になり、危険や危険が予測される状態のことを表しています。それぞれの要素が引き金となって不穏を引き起こします。
要素 | 原因 |
身体的要素 | 身体の痛みや膀胱の充満など身体的な変化 |
精神的な要素 | 入院や施設を利用するなど場所の制限や点滴など普段行っていないものへの不安の現れ |
生理学的な要素 | 血糖値コントロール不良や低酸素血症など生理学的な症状 |
したがって苦痛や不安、自分で行いたいと思ってもできないことへのストレスから行動が引き起こされています。不穏の場合の具体的な行動について考えていきます。

落ち着きがなくそわそわしている
行動の1つとして他動になる、普段とは異なった行動をとる、注意散漫で声かけに反応しないなど落ち着きがなくそわそわする状態があげられます。不穏が引き起こされる原因は人によって異なるため、要素を断定することはできませんが、事故につながる恐れがあるので注意が必要です。
興奮して暴れる
普段穏やかな人が突然大声で叫ぶ、興奮して暴れ暴力的や攻撃的な状態になることは不穏の症状の1つです。普段と性格が異なるため、周囲が受け入れるまでに時間がかかることもあります。本人の状態が何らかの要因によって不穏を引き起こしていることを理解しましょう。
治療や介護を拒否する
生理学的な要因が主な原因となります。意識障害が起こり、治療に必要な点滴を無理に抜こうとする、介護に抵抗するなどの不穏行動が現れます。低血糖、肝機能や腎機能障害は意識障害が起こりやすいとされています。
不穏の原因
不穏を引き起こす原因は1つとは言えず、その人にとってのきっかけは実際に接してみないとわからないことがあります。
環境の変化
入院、入所、家事を依頼していたヘルパーや病院の看護師の交代、引っ越しなど環境の変化が原因となる場合があります。新しい環境に馴染めない結果、不穏を引き起こすとされています。
身体的又は精神的ストレス
病気、手術、治療、介護、睡眠不足など身体的や精神的ストレスが原因となる場合があります。痛みが強い、かゆみが強くて眠れない、息が苦しいなど身体や精神に負荷がかかることによって不穏を引き起こすとされています。
不安や苦痛が原因となる
利用者自身が不安に感じるもの、苦痛と感じることがあれば、その人の不穏の原因になります。和らげるためには、利用者自身が感じている不安や苦痛を軽減できるように努める必要があります。
せん妄とは
不穏はせん妄の症状の一種です。意識狭窄や変容することを指しています。主に器質性脳疾患、身体疾患、薬による副作用が原因と言われています。
脳機能障害の一種であり3つの型がある
せん妄は急性の脳機能障害であり、1日の中でも症状が大きく変わります。症状と意識レベルに基づいて、過活動型、低活動型、混合型に分類されています。

型 | 症状 |
過活動型 | 幻覚、妄想、焦燥性興奮、失見当識、大きな声を出す、つじつまが合わない話をするなどの症状がみられる |
低活動型 | 混乱や鎮静がみられる、抑うつと間違われることも多いほど、反応が乏しい |
混合型 | 幻覚、妄想など過活動型の症状と混乱や鎮静など抑うつと間違われる症状などが1日の中で両方現れる状態 |
症状をよく観察し、利用者がどの型にあてはまるのかを見極める必要があります。
不穏への対処法
では実際に利用者が不穏となったときの対処法について説明します。
軽度の場合
利用者自身が介助者の話に耳を傾けてくれる、声かけに反応がある場合の対処法について考えていきましょう。
落ち着かせる
不穏になっている利用者は目に見えない何かから不安や苦痛を感じ不安定になっているため、原因を探り、落ち着かせることが大切です。落ち着かせることと、介助者の言うことを聞かせることは異なります。
利用者の思いに耳を傾けながら原因となっている不安や苦痛を取り除けるような対応が求められます。ゆっくり話を聞き、利用者に寄り添っていくことで利用者自身が精神的な安定を取り戻し、落ち着くことが可能となります。
丁寧に対応する
不穏状態の利用者に対して強い口調で話しかける、否定的な態度は状態を悪化させてしまうため、丁寧な対応を心がけましょう。利用者は自分の思いが十分に伝えられるときばかりではありません。そのため、健康な人以上に口調や態度には敏感になりやすいです。
例えば、「ゆっくり食べてください。」と声かけしながら介助者がバタバタ走り回っていては落ち着ける環境とは言えず、忙しい雰囲気を感じ取ってしまいます。不穏のときは帰宅願望が強く現れる、人に対する攻撃が強いなどの症状がみられるときがあります。介助者側が丁寧に対応することで落ち着きを取り戻せることもあるため、行動には十分な注意が必要です。
暴力的な場合
不穏状態の利用者は症状によって暴れて手がつけられない、攻撃的な行動に出る場合があります。興奮状態への対処法について説明します。
複数のスタッフで対応する
利用者が暴力的になっている場合は無理して1人で対処しようとせず、他の職員を呼び、複数人での対応が必要です。興奮状態のときに1人で対応すると、利用者と介助者の両方にケガのリスクが高まり、危険な状態に陥る恐れがあります。お互いを守る意味も含めて、複数人対応を心がけましょう。
不穏とは不安定で危険な状態であり、落ち着かせることが大切
介護や看護の現場での不穏症状は、利用者や患者が不安定で危険な状態のことを意味します。不穏を引き起こす原因は個人によって異なります。
不穏になった場合、その個人が何に不安や苦痛を感じているのかを第一に考えましょう。利用者や患者が言葉にできず、不穏という行動で表しているものを突き止め、寄り添い、不安や苦痛が軽減できるように努めることが介助者としてできることです。
介助者は利用者や患者の不安を取り除くためにはまず自分自身が落ち着いた雰囲気や姿勢で声かけを行います。命令や押しつけるような口調ではなく、丁寧に接することで相手も落ち着きを取り戻せるでしょう。