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信頼関係を築きたい利用者から身体的や精神的暴力を受けると何が正しいことなのかわからなくなってしまいますよね。私は居宅介護支援事業所のケアマネをしていますが、私の担当利用者Nさんは訪問介護事業所のヘルパーに対して暴言や暴力が続きました。ヘルパーはモノではありません。サービスは人との信頼関係で成り立っています。利用者はお客様の精神でかんばってくれた事業所でしたが、サービス提供中の事故をきっかけに包括支援センターを交えて話し合い、サービスを停止した出来事についてお話しします。

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わがままな利用者さん、暴力やペットの世話を強要

利用者Nさんは85歳女性です。ご主人とは10年前に死別し、息子さんも海外赴任中のため、大きな屋敷に1人で住んでいます。アルツハイマー型認知症と診断はされていますが、判断能力はあります。もともとお嬢様だったこともあり、家のことはほとんどできません。ご主人がご存命のときはお手伝いさんを雇っていたと本人が言うぐらいですから認知症になる前から家事はできなかったと推測されます。Nさんに私たちの仕事を評価してほしいとは思いませんが、そのヘルパーに対して文句を言ったり、サービス外のことも平気で頼みます。

自分の言うことを聞かないと威嚇

「天気が悪いのに洗濯をしたのか」「洗濯物の干し方が悪いからしわだらけだ」など提供した食事を食べずにわざわざ小言を言いに行きます。ヘルパーもNさんの性格を知っているため、「経験が浅いから申し訳ないです」など上手を言って対応してくれます。そこまではまだ何とか目をつぶれますが、「庭の鯉に餌をやれ」や「猫のトイレを掃除してくれない」とペットの世話までヘルパーに言われるのでさすがに困ってしまいます。ベテランヘルパーはなぜできないのかを説明し、断ってくれます。しかし若いヘルパーはNさんの言葉がきつく、気に入らないと杖で床や机など叩いて威嚇するため、結果、Nさんの言いなりになってしまい、ペットの世話までしなければならないこともありました。

利用者をかばってケガをしたヘルパー

嫌みを言われてもお手伝いさん扱いされてもヘルパーの訪問がなければ生活ができないことは明らかなため、事業所は訪問を続けなければいけません。どのようなサービスを提供しても文句をつけるNさん。その日は「お茶がぬるい」と食器棚を杖で叩いて怒り出しました。

そのときです。叩いた反動で食器棚を止めてあった金具が外れ、食器棚がNさんのほうへ倒れてきました。ヘルパーがとっさにNさんに覆い被さったため、Nさんにケガはありませんでしたが、ヘルパーは食器棚の下敷きになりました。

SOSの電話「わたしが悪かった」

事故が起きてすぐに動けるのはNさんだけです。ケアマネである私の携帯に泣きながら「助けてほしい」「今すぐ来てほしい」と連絡が来たため、駆けつけました。訪問すると「わしが悪かった」と泣きじゃくるNさん。部屋の中の状況に私自身も頭が真っ白になりましたが、ヘルパーは意識ははっきりして話もできました。しかし、食器棚に挟まれて身動きが取れない状況。私1人の力で持ち上げこともできず、レスキュー隊を待って救出し、腕に割れた食器があたり出血していたため、救急搬送されました。

ヘルパーは病院で背中や腰もレントゲンで診てもらい、腕に5箇所の傷があっただけで異常はなく、その日のうちに帰宅しました。

言いたい放題だった利用者さん、改心して故郷に転居

自分が悪かったと言われ、私に謝りに連れて行ってほしいというNさん。ヘルパーがケガをしたこともあり、包括支援センターへも連絡し、今後について話し合いの場を設けました。他県に住んでいるNさんの弟さんも同席してくれました。Nさんは言いたい放題の自分を助けてくれたヘルパーさんにお礼と謝罪をしました。弟さんからは病気が進む前に自分の家の近くに帰ってきたほうが良いと説得され、Nさんは弟さんの自宅近くにある高齢者専用住宅へ転居されました。

介護のプロを目指すならとっさの行動がとれる人へ

数年前の出来事ですが、今でも担当ケアマネとしてNさんの暴言や暴力に向き合えていたのかを考えるときがあります。またヘルパーのプロ意識の高さにも自分が同じ状況に置かれたときに同じ行動が取れるのか、自問自答しながら介護のプロを目指している自分がいます。

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