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老人ホームで介護を受けるに至るまで順風満帆な人ばかりではないですよね。住み慣れた自宅で過ごしたいと誰もが思う中、老人ホームへ入居される人もいるでしょう。私の働いている老人ホームでは入居時に何か1つ馴染みのモノを持って来てもらうようにしています。

新しく入居したTさんの嫁入り道具をきっかけに笑顔が増えた事例をお伝えします。

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思い出の嫁入り道具を持ってくる

Tさんは80歳(女性)で認知症の進行に伴い、同じ年のご主人が介護をすることが限界となり、老人ホームへ入居しました。馴染みのモノは嫁入り道具の小さな化粧台を持ってみえました。ご主人は毎日化粧台の前で髪をとかしてあげていると教えてくれました。

化粧台は魔法の鏡

いつも一緒にいたご主人がいないため、落ち着かないTさん。自分で食べることができた食事もおかずで遊んでしまう、うろうろ歩き回ってしまうなど問題と言われる行動が続きます。

自宅から持ってきた化粧台も入居時から部屋に置いたままになっていました。部屋に置いてあっても使う気配もありません。ご主人から毎朝、鏡の前に座らせていたことを聞いていたため、入居から初めて鏡の前に座ってもらいました。

鏡に映ったTさんは自分で髪をなでています。ご主人から毎朝、鏡の前で髪をとかしていたと聞いていたため、職員も同じように髪をとかします。

いつもぼんやりしていたTさんの顔が化粧台の前ではにっこり笑顔に変わりました。髪をとかし終わった後も鏡を見て微笑んでいます。

そこへほかの入居者も来ます。「私もおばあちゃんになっちゃった」と笑いながら鏡をのぞき込みます。車イスに座っている人からは私にも見せて欲しいと言われます。Tさんの嫁入り道具の化粧台が次々と入居者の笑顔を映していきます。

女性はいくつになっても女性

毎日化粧台の前に座るようになり、ご主人と一緒に来た優しいTさんが老人ホームでも見られるようになりました。

また他の入居者も化粧台の前に座りたがります。怒って化粧台の前に座る人はいません。鏡は洗面台の前にもありますが、どの人もTさんの化粧台の鏡を使いたいと言われます。

いくつになっても女性は美しくありたいと思うのでしょうね。

馴染みのあるモノの力

老人ホームという施設の中で個人のモノを管理することは大変なことです。壊れてしまった場合や紛失した場合の責任問題もあります。

ただ入居される人は今までと異なる老人ホームという異空間が生活の場所となります。右も左も分からない中で生活を送るほど不安なことはありません。

入居前と入居後の生活をつなげる工夫として私たちの老人ホームでは馴染みのあるモノを取り入れています。この老人ホームに入居できてよかったと思える施設づくりを目指していきたいですね。

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