認知症の症状の中でも介護者が頭を悩ますことの多い帰宅願望。家にいても「家に帰りたい」と訴える人もいます。どう対応したら良いのか分からず、介護者の頭を悩ます症状の一つです。しかし、この帰宅願望は対応の仕方によって改善することが可能です。一般に、帰宅願望のある人に対してはどのようなケアプランが立てられているのかということをお伝えします。
目次
帰宅願望へのケアプラン4つ

1.否定せずゆっくり話を聴く
まずは利用者の訴えを否定せず、「うん、そうなのね」とゆっくり傾聴します。
帰宅願望のある利用者に対して、最もしてはならないことが「否定」をすることです。
「家には帰れないですよ」「それは無理ですよ」と訴えを真っ向から否定すると、さらに症状が悪化したり、興奮状態になって怒ったりします。
利用者が帰りたいと訴えるのには必ず理由があります。女性であれば「ご飯を作ってあげないといけないから」、男性であれば「仕事が残っているからしないといけない」など、目的があるから帰らないといけないと思うのです。
その訴えをまず否定せずに傾聴します。その上で「今日は外でご飯を食べて来るそうですよ」「今日は会社お休みなのでお仕事も一休みしましょう」などと声を掛けます。
また、「得意料理はなんですか」「どのようなお仕事をされているのですか」などと話を展開させることで「帰らなければならない」という意識から離れ、話に集中してもらうのも一つの方法です。
得意なことや自慢だったことについては、得意げに話をしてくださり、笑顔が見られることも多くあります。上手に意識を逸らすことで帰宅願望の症状を緩和します。
2.一緒に外へ出て落ち着くまで歩く
話を聴いても帰宅願望が落ち着かず、施設から出ていこうとされる時には、一緒について行動をします。無理に引き留めず、散歩するような感覚で付いていきます。
「家に帰りたい」という帰宅願望は夕方に現れやすいと言われています。これは「夕暮れ症候群」と呼ばれ、夕暮れ時の薄暗さや寂しさが不安となり、帰宅願望となって現れます。
家に帰りたいと訴える利用者も、実際に外に出て帰ろうとすると寒かったり、暗かったり、道が分からなかったりして、帰宅願望が少しずつ薄まることはよくあります。
そのタイミングを見計らって、「今日は寒いから戻って暖かいお茶でも飲みましょう」「そういえば〇〇さんに教えてほしいことがあるから戻ったら教えてね」などと優しく声を掛けます。
帰宅願望は不安や焦燥感が膨らんで現れる症状です。そのため、「自分はここにいてもいいんだ」という安心感が生まれることで帰宅願望がなくなったり、他のことに興味が移ったりします。安心してもらえる声かけや環境を作ります。
3.家族に面会に来てもらう
家族の協力が得られるのであれば、たまにでもいいので面会に来ていただけるようにお願いをします。
帰宅願望の根底にあるのは寂しさや不安だったりします。施設に入居していると家族と会う機会が減ったり、馴染みの環境でなかったりして帰宅願望が現れることがあります。
そのため、家族が面会に来てくださるのは本人の心の安定にとても大きく作用します。
頻繁に面会はできなくても、面会の予定が決まってるというだけで「会える日が楽しみ」という日々の活力に変わります。施設に入居している利用者が家族と会えた日の表情というのは普段とは全く違います。それだけ家族の存在は大きいのです。
4.馴染みの環境を作る
在宅で生活していた人が施設へ来ると、慣れない環境で不安を抱きます。
いつもそばにいた家族と会えなくなることも本人にとっては非常に大きなストレスです。
その不安が帰宅願望へとつながることがあります。
そのため、なるべく施設内で馴染みの環境を作るようにしていきます。普段家に飾っていた置物や写真、いつも使っていた枕などは、本人にとって馴染みの物なので、近くにあることで安心感が生まれます。
また、物だけでなく、編み物が得意な人であれば施設でも編み物をしてもらったり、生け花が好きな人であればお花を生けてもらったりと、馴染みのある趣味が施設でもできるように環境を整えていきます。
施設でも「私の居場所」と思える環境を作ることで落ち着いて生活ができるように支援します。
行動ではなく気持ちへアプローチする

帰宅願望は寂しさや不安、焦燥感などが引き金となっていることが多いです。
そのため、施設では「帰りたい」という行動そのものにアプローチするのではなく、その根底にある利用者の気持ちにスポットを当てて対応を考えていきます。
施設内で役割を持ったり、話を聴いてくれる人がいたりして「ここにいてもいいんだ」と安心することができれば、自然と帰宅願望は落ち着くことが多いです。
利用者本人も、何の理由もなく「帰りたい」と言っているのではありません。本人なりの帰らなければならない理由があり、行動を起こしています。大切なのは「帰宅願望をなくすこと」ではなく「不安な気持ちを軽減すること」であるという考えが基本です。
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