介護業界には多くの資格がありますが、現場で活躍したいなら、まずは初任者研修を受けるのがよいでしょう。次に実務者研修を受け、最終的には国家資格である介護福祉士の取得を目指しましょう。介護福祉士になると事業所のサービス提供責任者になるための条件が満たされ、自身のキャリアアップにつながります。
目次
介護現場で役立つ資格の種類
実践可能な知識を得られる資格が現場で役立ちます。介護関係の資格は養成講座を受講するものから国家資格までさまざまです。現場の経験がなく働く場合、第一に初任者研修を受けるのが望ましいでしょう。
初任者研修
介護の仕事に就く際、知っておきたい知識と技術が身につく資格になります。研修内容は、職務の理解の他、介護の基本や福祉サービスの理解、コミュニケーション、障害、認知症の理解など9科目で介護について幅広い知識を得るものとなっています。履修時間は130時間あり、高齢者や障害者施設など現場での実習も行われます。履修後は筆記試験による修了評価があり、合格すると初任者研修修了証が得られます。
修了評価は理解度を確認するためのものです。初任者研修は実務経験の必要もなく、誰でも養成講座を受けることができます。1~3カ月程度の短期間で資格取得が可能です。教育訓練給付制度対象の講座もあり、年齢に関係なく、介護の仕事に就きたいと思ったときから始められます。
初任者研修後のキャリアパス
介護職のキャリアパスは、介護実践の専門性を高めるためのものになります。キャリアパス制度は、専門知識の修得に向けた現場での研修プラグラムです。
具体的には、介護職員養成カリキュラムの強化、専門知識を修得、チームリーダーの養成などを通じて、介護の質の向上や人材の定着促進を目指しています。また働く職員は、目標が明確になっていることで昇給や昇格、仕事のやりがいにつながります。
キャリアパス構成
経験年数 | 職位 | |
ステップ1 | 1年 | 初任者 |
ステップ2 | 1~3年 | 実務者 |
ステップ3 | 3~5年 | リーダー |
ステップ4~6 | 5年以上 | 副主任、主任、管理職、施設長、管理者 ※事業者によって名称が異なる |
そのため、初任者研修修了後、3年間の現場での実務経験と実務者研修修了によって、介護福祉士の受験資格が得られます。国家資格である介護福祉士を受験し、合格して介護福祉士になることは、介護職員としてキャリアアップにつながります。
実務者研修
実務者研修は、介護資格のキャリアパスの中で、初任者研修後のステップ資格に位置づけられています。研修科目は初任者研修と共通する科目もありますが、初任者研修に比べてより専門的な知識や技術の修得を目指しています。そのため、履修時間は20科目450時間となっています。受講する際、初任者研修の資格があれば共通する科目は履修免除されます。
初任者研修と実務者研修の大きな違いは、医療的ケアを学ぶか否かになります。実務者研修では医療的ケアを履修します。知識の修得と実地研修を修了することにより、福祉施設での「たん吸引」と「経管栄養」が実施できるようになります。
医師や看護師の監督、指導のもと、医療的ケアに携わることができる介護職員は24時間の介護が必要な特別養護老人ホームや有料老人ホームでは必要とされます。医療的ケアの研修は新たに受けると費用も高額になります。今後の介護に役立つため、キャリアアップを目指すことが可能です。
その他、国家資格である介護福祉士の受験資格を得るためには、3年以上の実務経験の他、実務者研修の修了が必須となりました。実務者研修修了によって、実務経験年数に関係なく、訪問介護事業所のサービス提供責任者になることができます。初任者研修同様に実務者研修も受講期間は3カ月程度、教育訓練給付制度が利用できる講座があります。
介護福祉士
1987年「社会福祉及び介護福祉士法」によって定められた国家資格になります。介護福祉士は、専門知識と技術をもって利用者の介護の他、現場の介護職員に対する教育や指導などの役割を担っています。介護福祉士になるためには、3つの方法があります。
実務経験を満たす
3年以上の介護現場での実務経験と実務者研修修了をもって受験資格を得る方法になります。未経験でも働きながら国家資格である介護福祉士を目指すことが可能です。
養成施設を卒業する
厚生労働大臣が指定する介護福祉士養成施設(大学、短期大学、専門学校)において必要な知識や技能を修得して資格を取得する方法です。平成29年度より養成施設卒業者も国家試験の受験が必要となりました。令和3年度末までは経過措置のため、国家試験を受験しない、また不合格でも5年以上介護の仕事に従事することにより介護福祉士になることが可能です。令和4年度以降は養成施設卒業者も国家資格に合格しなければ介護福祉士になれないため注意が必要です。
福祉系高校ルート
福祉系高校で厚生労働大臣が定める教科目及び単位数を修めて卒業し、国家試験に合格して資格を取得する方法です。
国家試験の概要・合格率

介護福祉士の国家試験は年1回、1月下旬に筆記試験、3月上旬に実技試験が行われます。合格基準は総得点の6割程度となっています。2015年の国家試験は、3年以上の実務経験修了のみで受験ができたため、受験者数152,573人、合格者数88,300人で合格率は57.9%でした。
2016年の国家試験から実務者研修修了が義務づけられたため、2016年は受験者数が76,323人に減少しています。昨年は、受験者数94,610人、合格者数69,736人で合格率は73.7%となり、受験者が増加しつつあります。
参考公益財団法人社会福祉振興・試験センター「介護福祉士(受験資格)」介護福祉士の登録者数
国家試験を受験し合格後、介護福祉士として登録する必要があります。昨年の登録者は、66,099人。平成元年の最初の登録者数が2,631人から30年経過し、総計は1,623,451人となっています。
参考厚生労働省「介護福祉士の登録者数の推移」介護福祉士の給与
厚生労働省による「平成30年度介護従事者処遇状況等調査結果の概要」によると介護職員の平均給与額は以下のようになっています。
平均給与額 | |
介護職員全体 | 300,970円 |
介護福祉士 | 313,920円 |
実務者研修修了者 | 288,060円 |
初任者研修修了者 | 285,610円 |
無資格 | 261,600円 |
同じ介護の仕事をしていても保有資格によって給与額に差が生じます。キャリアアップを目指す上で国家資格取得は必須といえます。また介護職として転職する際、介護保険上加算要件になっているところもあるため、介護福祉士を取得していることは有利になります。
介護福祉士と合わせて取ると役立つ資格
介護職員として働いていく上で国家資格である介護福祉士は優位な資格といわれています。合わせて介護の質や専門性を高めるために持っていると役立つ資格があります。
レクリエーション介護士
2014年に一般財団法人日本アクティブコミュニティ協会の協力のもと、開発された資格になります。受験資格はなく、レクリエーションを通じて高齢者を喜ばせたい、介護を行いたいと考える人なら誰でも受講することができます。
養成講座では、基本的な介護知識の修得とレクリエーションの知識や技術を身につけることを目的として考えられています。高齢者が気軽に参加できるレクリエーションの企画から実施まで担当することを目指しています。日々のレクリエーションの他、コミュニケーション技術の向上、楽しく安全に行うために必要なことなどを学びます。
取得方法は、養成講座を受講して知識を深め、最後の総合評価で合格基準を満たすことです。その後の試験や研修などはありません。レクリエーションを苦手とする介護職員は多く、注目されている資格です。資格取得後は、レク代行サービス「介護レクサポーター」を運営する会社からレクリエーション介護士として活躍できる場の紹介を受けることができます。未経験の人であっても資格を取得することで仕事のサポートが受けられます。
介護事務
介護保険や介護報酬請求についての知識が身につけられる資格になります。介護報酬請求業務は介護事業の運営に欠かせない業務です。介護事務資格はさまざまです。日本医療教育財団は「ケアクラーク」、技能認定振興協会は「介護事務管理士」、医療福祉情報実務能力協会は「介護事務実務士」など他にも運営団体が異なる資格があります。
介護事務の多くは、介護保険制度の仕組み、給付管理業務、介護報酬の計算方法、レセプトの作成方法、支給限度額などを学ぶことができます。介護職としてスキルアップする上で仕組みが理解できると運営や経営へ目が向けられる点でよいといえるでしょう。

その他の介護資格
未経験の人では取得できない、受験資格が得られない資格ですが、介護のキャリアパスを考えていく上で上位資格と位置づけられている代表的な資格になります。
介護支援専門員(ケアマネジャー)
平成12年介護保険制度が始まったときに導入された資格になります。国家資格ではありませんが、介護保険施設で必要とされるのが介護支援専門員です。介護支援専門員は養成講座の受講だけで取得することはできません。一方で、未経験の人であっても初任者研修、実務者研修を修了し、国家資格である介護福祉士を取得した人はさらなる実務経験を積むことで受験資格を得ることが可能です。
取得方法
介護福祉士、看護師、保健師、社会福祉士、精神保健福祉士など定められた国家資格を取得していることと、国家資格を取得して5年以上の実務経験があることの2つが条件になります。以上の条件を満たすと、介護支援専門員実務研修受講試験を受験することが可能になります。
専門性を高めるために平成18年より介護支援専門員は5年ごとに資格更新が必要な資格となりました。更新研修は、専門研修Ⅰが56時間、専門研修Ⅱが32時間あり、5年の有効期間が切れる前に研修を修了する必要があります。
介護支援専門員の指導者として主任介護支援専門員の資格があります。介護支援専門員として5年以上の実務経験、その他必要と認められた人が主任介護支援専門員の研修が受講できます。主任介護支援専門員も5年に1度の更新研修があり、専門的な知識の修得に努めています。
試験は年1回あり、10月中に行われます。試験に合格すると、介護支援専門員の実務研修を受講することができ、研修修了をもって介護支援専門員として登録することができます。
令和元年の試験は台風の影響で一部の地域で試験を行うことができず、3月に再試験が予定されています。昨年は、受験者数30,509人、合格者数4,990人で合格率は10.1%でした。過去3年の合格率は、平成27年度が15.6%、平成28年度が13.1%、平成29年度が21.5%となっており、15~20%の間を推移しており、難関資格といわれています。
参考厚生労働省 「第22回介護支援専門員実務研修受講試験の実施状況について」
介護支援専門員の仕事
「介護保険法」で定められたおり、居宅介護支援事業所や介護保険施設に必ず配置されている専門職です。仕事のポイントは3つあります。
1.ケアプランの作成
介護支援専門員は利用者が介護保険サービスを利用する際に必要なケアプランを作成します。ケアプランは、利用者や家族の相談に応じ、利用者がその人らしく自立した生活が送れるような支援が目標です。そのためには介護支援専門員としてアセスメント力が求められます。
アセスメントを難しいと考える人は多いですが、難しく考える必要はありません。介護にとらわれると難しくなりますが、私たちは日常生活の中で自然にアセスメントを行っています。
例えば、テレビを買うことを思い浮かべてみましょう。テレビは小さいものから大きなものまでさまざまです。今は4K対応のものも販売されています。録画機能が内蔵されているもの、スピーカーがよいものなど個々のテレビによって特徴が異なります。テレビを買う際にいろいろな情報を集め、自分や家族が欲しいものや生活に合うものを選ぶことでしょう。自然に頭の中でテレビを買うためのアセスメントを行ってよりよいものを選んでいるのです。
介護も同じです。利用者や家族の個々の情報を集めて何が必要か、解決したいと思っている課題を一緒に考えていきます。「散歩に出かけたい」「自分で食事ができるようになりたい」など個々の目標を見つけ、そのために必要な支援を一緒に考えていくことが大切であり、介護支援専門員の役割といえます。
2.給付管理
事業所によっては介護保険事務を事務員が行っているところもありますが、介護保険サービスを利用する際の介護給付費の管理は基本的に介護支援専門員の仕事です。特に在宅生活の場合、要支援や要介護の状態によって介護保険内で利用できる限度額が決まっています。利用限度額を超えたサービスは全額自己負担になります。そのため、介護支援専門員は利用者の状況に応じて利用限度額内でサービス調整を行う必要があります。
3.事業所と利用者のサービス調整
利用者が必要としているサービスを提供する事業所との橋渡し役です。在宅サービスの場合、デイサービスや訪問介護など多くの事業所があります。特徴も事業所によって異なります。
例えば、デイサービスは体操を重視しているところもあれば、日々のレクリエーションに力を入れているところ、平日以外に土日営業しているところや延長可能など、施設によって特色があります。利用者や家族の状況をアセスメントし、同じデイサービスでもどのようなことを求めているかを見極める力がサービス調整には求められます。
社会福祉士
1987年「社会福祉及び介護福祉士法」によって定められた相談援助の国家資格になります。社会福祉士国家試験を受ける必要があります。受験資格が必要であり、未経験から資格取得はできません。
受験資格
資格を取得するためには大きく4つの方法があります。

- 4年制大学で指定の科目を修了する
- 2~3年制の短期大学などで指定の科目を修了し、1~2年以上の相談援助業務に就く
- 6カ月以上の社会福祉士短期養成施設を修了する
- 1年以上の社会福祉士一般養成施設を修了する
大学や養成施設は通学・通信のどちらもあります。しかし通信制であってもスクーリングがあり、また約4週間の現場実習も必要となります。
参考公益財団法人社会福祉振興・試験センター「社会福祉士国家試験(受験資格)」
国家試験の概要と合格率
社会福祉士の国家試験は年1回、2月上旬に行われます。合格基準は総得点の6割程度となっています。総得点を満たした上、18科目すべてにおいて点数が必要となります。1科目でも0点のものがあれば、総得点を満たしていても不合格です。
昨年は受験者数41,639人、合格者数12,038人、合格基準点が89点で合格率は28.9%でした。過去3年の合格率は2016年が26.2%、2017年が25.8%、2018年が30.2%となっており、介護福祉士の合格率から考えると難関といえます。
参考厚生労働省「第30回社会福祉士国家試験合格発表」社会福祉士の登録者数
国家試験を受験し合格後、介護福祉士と同様に社会福祉士として登録する必要があります。昨年の登録者は、13,138人。平成元年の最初の登録者数が168人から30年経過し、総計は226,283人となっています。
参考厚生労働省「社会福祉士の登録者数の推移」社会福祉士の仕事
社会福祉の専門知識や技術をもって利用者の相談に応じたり、助言や指導を行い、福祉や保健医療サービスとの調整を行っています。社会福祉士は名称独占資格のため、社会福祉士をもっていないとできないという仕事はありませんが、ソーシャルワーカーとしていろいろな場で活躍しています。
福祉施設以外にも学校や行政機関、病院、裁判所などで専門職として働いています。少数ではありますが、独立型社会福祉士として事務所を立ち上げ、成年後見人や福祉に関する相談を受けることやサービスの橋渡し役を担うこともあります。
その他、社会福祉士資格があり、社会福祉事業での実務経験と社会福祉施設長資格認定講習会を受講すると、特別養護老人ホームの施設長要件を満たすことが可能になります。公益財団法人介護労働安定センターによる「平成30年度介護労働実態調査」によると、平均給与は、正規職員が234,873円に対して、施設長(管理者)は、359,357円となっています。
賞与に関しても正規職員が598,379円に対して、施設長(管理者)は、711,426円となっており、事業所の長として責任は重大ですが、キャリアアップを目指すことは可能です。
職種別給与
厚生労働省による「平成30年度介護従事者処遇状況等調査結果の概要」によると、職種別平均給与額は以下のようになっています。介護職員は介護福祉士、生活相談員・支援相談員は社会福祉士の占める割合が多いです。
平成30年9月 | |
介護職員 | 300,970円 |
生活相談員・支援相談員 | 321,080円 |
介護支援専門員 | 350,320円 |
資格によって業務内容が異なりますが、介護職員が早番や遅番、夜勤など変則勤務をしているのに対して介護支援専門員は日勤帯の仕事が多く、変則勤務に就いていないことが多いです。介護施設によっては介護支援専門員の配置が義務づけられているところもあるため、求められる人材といえます。
初任者研修は介護業界の第一歩
介護の仕事は年齢に関係なく、始めたいと思ったときから始められることが魅力です。年齢や経験で差別されるようなことはありません。ただ専門的な仕事も多く、知識や経験がないと戸惑うことも多いです。
介護の資格は養成講座を受講するものから実務経験を積み、国家試験を受験するものまでいろいろなものがあります。介護職のキャリアパスと照らし合わせて、経験に応じた資格の修得を目指しましょう。
また、資格取得は条件によって教育訓練給付金を受けることが可能です。また介護求人サイトに登録すると、提携している養成講座を格安で受講できる、無料で資格取得して就労することができる場合もあります。
無資格で仕事に就くことは可能ですが、不安なく仕事に就きたいと思えば資格を取得してから就職した方が安心して仕事に取り組むことができます。初めて介護の資格取得を考えているなら未経験でも取得可能な初任者研修から始めることをおすすめします。
働きやすい職場環境選びがあなたを輝かせる
あなたはなぜ介護の仕事を続けているのでしょうか?
日頃から考えることが多すぎていつの間にか忘れてしまっている介護の現場で働く理由。母が祖母の介護を大変そうにしているのを見て介護職を志した人や、障害者の方が当たり前の日常を送れない現実を知って、当時の自分では何も力になれないもどかしさから介護の仕事を志した人もいるでしょう。
現在、あなたが介護の仕事を行っているのは、「人の力になりたい!」と強く思ったからではないのでしょうか?
3K(きつい、汚い、危険)と言われていることを知った上で働き続けているあなたは高齢化社会である日本の誇りです。
介護業界の主役は現場で働くあなた自身です。
あなたをキッカケに、「介護の仕事って楽しいんだよ」「介護ってかっこいいんだよ」と思ってもらえる仲間が増えることを祈っています。
まずはあなた自身が輝ける場所に行きましょう。
世の中は、熱い想いを持って介護の仕事に取り組むあなたのような人材を求めています。