認知症の方の介護。日本の介護の歴史において、これほど方針や手法がコロコロと変わっているケアは珍しいといえます。言い換えれば、それほど「これ!」といったケア方法が確立されていないのが認知症のケアだ、といえるでしょう。
もしかしたら、介護の仕事に就いたばかりの人が先輩から教えてもらう認知症ケアも、本当にそれで良いのだろうか?と疑問をもつ場面があるかもしれません。
ですから、最先端の認知症ケアを学ぶことは重要で「認知症介護実践者研修」を受講することは、その役に立ちます。この記事では、
- 認知症介護実践者研修で学ぶ内容や、受講する資格、受講期間や費用はどうなっているのか
- なぜ、認知症介護実践者研修を受講することになったのか
- そもそも、認知症介護実践者研修の受講は必要なものなのか
- 受講したことが、実際のケアにどのように役立っているのか
をお伝えしていきます。
目次
認知症介護実践者研修を行う目的
認知症介護実践者研修の目的は「認知症の介護に関する理念、知識および技術の修得を図り、もって認知症高齢者に対する介護サービスの充実を図ること」とされています。別の言い方をすれば、認知症高齢者の人権を守りながら人間らしい生活をおくっていただくための知識と技術の修得、ということです。
認知症介護実践者研修の詳細は都道府県により違う
認知症介護実践者研修は、介護サービスの種類と職種によって受講しなければならないと法律で定められている人がいます。たとえば、グループホーム(認知症対応型共同生活介護)の管理者や計画作成担当者などです。
受講したかどうかを確認し、受講していなければ注意や介護報酬の減算を行ったりするのは行政の仕事です。認知症介護実践者研修の計画については都道府県が定めることになっていて、実際の研修は、社協や民間団体へ委託していることが多いものです。
ですから、都道府県によって受講内容・資格・期間・費用は異なっています。ここでは一例(長野県の例)をあげながら、費用などは相場についてお伝えします。
受講資格(受講対象者)は2パターンに別けられている
1パターン目は、介護職の経験が2年以上あり
- グループホーム(認知症対応型共同生活介護事業所)の管理者や介護計画作成担当者
- 認知症対応型デイサービスの管理者
- 小規模多機能型居宅介護支援事業所の管理者や計画作成担当者
として、1年以内に従事することが決まっている人
2パターン目は、1以外の人、全員です。ただし、認知症介護研修(1日コース)や認知症介護基礎研修を修了している人が望ましい、とされています。
ちなみに1パターン目に該当する人は、事業所が所在する市町村長(または広域連合長など)宛てに受講申し込みを行うことになっていて、提出された市町村長などから、認知症介護実践者研修を実施する機関に、推薦書と共に申し込むことになっています。
2パターン目の人は、認知症介護実践者研修を実施する機関に直接申し込みます。
他の都道府県でもだいたい同様ですが、2パターン目の「修了していることが望ましい」とされている研修の受講が、必須となっている都道府県もあります。
学ぶ内容と受講期間
認知症介護実践者研修の受講期間は約一週間で、3回に分けられています。
- 認知症ケアの基本的な視点や理念、権利擁護や家族への支援方法、生活支援を学ぶ2日間と、3週間の自施設実習
- 認知症の人の具体的な介護技術や生活環境づくりなどと、1回目の自施設実習の報告を行う3日間。その後、2回目の自施設実習(3週間)
- 2回目の自施設実習の報告会(1日)
他の都道府県では、実習が2回に分けられていない場合もありますし、実習の期間が4週間というところもあります。しかし、座学で学ぶカリキュラムは「認知症介護実践者研修 標準テキスト」などを用いますので、だいたい同じです。
受講費用は都道府県によってバラバラ
長野県の場合には「全国認知症介護指導者ネットワーク」という団体へ委託しており、17,500円です。しかし愛媛県では39,000円ですし、和歌山県では25,000円のため、本当にバラバラだといえます。
わたしが認知症介護実践者研修を受講した理由
わたしは、研修の受講が義務付けられていないサービス事業所で働いており、今後も、義務付けられている介護サービスを始める予定もありません。
その中で、事業所の方針では不安があり、認知症の方を一人の人間として尊重した介護がしたいので、専門的な知識を学びたいという気持ちがあったからです。
今後、5人に1人は認知症になる、といわれている年代が目の前にまでせまっています。そのため、今行っている認知症ケアに不安を抱えているなら、皆で話し合い、認知症介護実践者研修を受講させてもらえないかを管理者に掛け合ってみることができるでしょう。
認知症介護実践者研修で学んだことと、研修の受講は必要なのか
介護の世界はよく「絶対に正しい!という答えがない世界だ」といわれます。それは利用者一人ひとり、病気や後遺症、身体状態、生活歴などが違うからです。ですから、経験がものをいう世界でした。昇格も年功序列が多く、若い人の意見はなかなか取り入れてもらえませんでした。
しかし介護保険制度が始まり、介護の知識や技術を専門学校などで学んだ人たちが介護業界に入り始め、利用する側もインターネットなどで色々なことが分かり始めると、それでは通用しなくなりました。やはり「正しい知識、最新の知識や技術が必要だ」と、変わり始めたのです。
認知症ケアの歴史は、人権無視と身体拘束、虐待の歴史です。どこに行こうとしても同じ廊下をぐるぐると回ることで“徘徊”に対処しようとした「回廊式」の建物などは、その著明な証拠といえます。認知症の人のケアこそ、最新の知識とケア方法を学ばなければなりません。さらに、学んだことを実際に現場で行う介護に活かしていかなければ、意味がありません。
介護はチームワークです。認知症ケアも同じようにチームワークが非常に大事で、多職種がそれぞれ、専門的な視点から一人の認知症高齢者に対し、次のようなことを考える必要があります。
栄養・水分・睡眠はしっかりとれているか。
排尿・排便はしっかり出ているか。
服用している認知症の薬の副作用などはでていないか。
音・におい・明るさなど本人が不快と感じる環境になっていないか。
リビング・居室・ベッド周り・トイレなど生活しづらい環境になっていないか。
などです。一人でも多く集まれば、「気づく目」も一つ増えるために多くの意見が出されます。認知症がありながらも暮らしやすくするため、出された意見を検証し、改善が必要だと思われることは実際に行ってみて、再度検証していく。この繰り返しが、より良い認知症ケアの経験を積み重ねていきます。
このように認知症介護実践者研修を受講することは、これからの介護職にとってとても大事なことなのです。
認知症介護実践者研修は、認知症ケアの最先端を学べる良いチャンス
厚生労働省も、認知症の方に対する施策を次から次へと打ち出しています。超高齢化社会である日本では、認知症ケアの質をあげていくことは「待ったなし」の課題なのです。解決方法の一つに、認知症介護実践者研修を受講することが挙げられます。都道府県によって、受講する条件や期間、費用は異なりますが、最先端の認知症ケアを学ぶことができます。
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