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到着した瞬間から驚きの連続!

フィリピンに到着したのは、平日の深夜。今回、取材のベースとして選んだマカティまでは、タクシーで移動。その車内からのファーストインパクトは、想像を超えた衝撃であった。欧米を始め、アジア圏には縁があり、何度も足を運んでいたが、フィリピンの道路事情には、目を疑った。平日の深夜帯にも拘らず、通行量がハンパない。クラクションが鳴り響き、アクセルとブレーキでリズムをとっているのか?というくらい、幹線道路全体が踊っていた。加えて、車内の温度はキンキンに寒い。運転手は後部座席を気にすることなく、少しでも早く前に進めないかと、僅かな隙間を縫って車線変更を繰り返す始末。

 

積極的な姿勢と謙虚な受け入れ態勢

翌日、小学校の二階の一室を間借りして行われている介護技術研修「ケアギバー」の教室を視察。年齢層は幅広く、3 歳くらいの子供さんを隣の席に座らせて、黒板に真剣な視線を送る女性の姿もあった。使用されているテキストは、教科書をコピーした会議資料のような書類。手あかが付き、何度も読み込まれた形跡がほぼ全てのページに残っていた。恐らく、譲り受けただろうと思えるテキストには、色々なボールペンの筆跡も多く見えた。

 

授業の進め方は、講師が教壇に立って読み込みながら、たまに黒板を使用するスクール形式。講師の話の合間にも質問が、多く飛び交う活気ある風景。今回は、この教室の卒業生のアテンドであったため、彼女に対して集中的に質問が殺到。内容はすごく具体的な質問ばかり。卒業後の就職先の給料のことや環境、日本に向かうための日本語学校の雰囲気や通学時間にまで至った。

授業風景
▲授業中はとにかく真剣!積極的な姿勢が印象的

 

 「礼に始まり、礼に終わる」

次に向かったのは、日本語学校。この学校は、スポンサーによる運営のため、授業料は無料。日本語検定 4 級合格を目指すため、ひらがな・漢字の読み書き、日常会話を中心に進められていた。教室内の雰囲気は明るく、終始笑いに包まれながらの授業風景。テキストは、先程同様のコピー。使い込まれたテキストも同様、彼女たちの真剣さが垣間見えた。

勉強する生徒達
▲日本語検定4級の合格を目指して帰宅後は勉強に励んでいます。

 

驚いたのは、「例に始まり、例に終わる」精神の徹底指導。廊下では立ち止まり、挨拶をした後に会釈。授業の開始・終了時も、日直の方が「起立。礼。」の号令を発し、「宜しくお願いします。」と、口を大きく開けて挨拶した後に深々と礼をする。「着席。」の号令で、全員揃って着座。

礼に始まり、礼に終わる
▲「礼に始まり、礼に終わる。」

 

私なりに日本の介護事情や日本の風土や文化を話した後も、「起立。礼。」の号令とともに「ありがとうございました。」と、一糸乱れぬチームワークは圧巻であった。この光景が今の日本の教育課程に存在するのか?と少し懐かしさを覚えたくらい、気持ちの良い時間であった。

 

 

リアルガチに驚かされた

この日最後の訪問場所である高齢者介護施設へ向かう道中、乗車していた車が事故に巻き込まれる。というか、いつ起こるのか?と毎回冷や冷やしながらであったため、あまり驚きはしなかった。

 

大型バスに巻き込まれ、左ドア付近からフロントバンパーが破損。幸いけが人は出なかったが、道路一面に破損したパーツが散乱。驚いたのは、その散乱したパーツをこっそり持ち出そうとする人や集まった野次馬に対して飴やタバコを売りに来る光景。また自然にその煙草を買う、事故を起こしたバスの運転手。事故よりも、その光景に対し、リアルガチに目が 飛び出しそうになった。

 

話を戻そう。高齢者介護施設内の環境は劣悪。日本人の感じる清潔感は、ここにはなかった。医療依存度の高い寝たきりの高齢者が 10 名程居住する部屋は、映画で観たことのある戦時中の野戦病院そのもの。大きな扉もあけられたままで、網戸もなく、ハエが飛び回り、独特の医薬品の匂いが高温多湿の空気中を漂っていた。

 

施設内を見学していると、そこに一人の日本人が居た。彼のもとに駆け寄り話を聞くと、二年ぶりに日本語を話したと、嬉しそうに入所の経緯を語ってくれた。滞在中にフィリピン人女性と結婚し、南の島で車関係をしていたらしい。車を運転している際に事故に遭い、 3 ヶ月程病院へ。奥さんは事故で亡くなったと。

 

身寄りがなく、この施設へ入り 3 年目。「 3 年居たら古株だよ。みんな 2 年くらいで入れ替わっていくね」と。周りには、認知症と思わしき方々が多数。 200 名程いる大きな施設に、日本人がひとり。「みんな優しいよ。スタッフは少ないけれど、気に掛けてくれる」などと 10 分程話をされながら、施設内を案内してくれた。帰りには玄関まで見送りをして下さり、満面の笑みで大きく手を振ってくれた。

 

 

風土・文化・風習を知る

今回のフィリピンでの出来事ひとつひとつに驚かされた。しかし、その根幹を知ろうとしてみると、目の前のことには必然性があると感じられる。その土地の風土や文化・風習をしろうとすると、驚くことに納得感が得られた。

 

高温多湿の気候下に於いては、車内の涼しさを異常に求める。我々の感覚とは異なる室温であるが、彼らにとっては当たり前の「おもてなし」なのかもしれない。 快適な車内空間は、室温だけでなく運転に於いても異なる。フィリピンでは想像を遥かに超える渋滞が当たり前。だからこそ、少しでも早く目的地に到着することが一番であり、後部座席に乗車してい る方の状況よりも、少し前の車との隙間が気になる。

 

また、靴を履いたまま生活する習慣のあるフィリピンでは、室内の床清掃も外の床清掃も同様。靴を脱いで部屋でくつろぐ日本人にとっては、掃除の全てが気になる。更に入浴の習慣もなくシャワーのみであり、その温度も 36 度。日本人には少し冷たく感じる。

 

外国人技能実習制度に一番必要なのは、言葉の壁ではなく、お互いを知ろうとするお互いの気持ち。日本語検定 4 級でもなく、介護技術でもなく、先ずはお互いを知ることが重要。日本に於けるそれぞれの仕事は、日本の文化の上に成り立ち、その意味をしっかりと伝えることで、聞き手も素直に理解し、習得するスピードも一気に上がる。

生徒たち
▲みんなの夢は「日本に行って専門技術に習熟したい!」

 

また、介護業界に於いて聴き慣れたアセスメントやモニタリングをスタッフ同士にも取り入れ、しっかりと受け入れるための準備をしていくことは、日本人同士の関係性も自然に構築されていくのではないだろうか?介護における外国人技能実習制度は、決して否定的な捉え方や後進的な考え方だけでなく、日本人自身も成長する側面を持っていると考えていきたい。

日本語学校のテキスト
▲コピーして使っているテキスト かなりの年季モノです
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