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介護士は原則、医療行為は行えません。介護士が行えるのは、厚生労働省が通知した「医療行為でないもの」に挙げられたものに限られます。例外的に介護福祉士は指定された研修を受けることで、医師または看護師の指示のもと、喀痰吸引や経管栄養が行えるようになります。

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介護士が行える医療行為

状態が安定している条件のもと、日常生活を営む上で医療的な視点が強い面もありますが、医療行為に該当しないと厚生労働省より解釈通知が出され、一部の行為を介護士が行うことが認められています。本来は、医師、歯科医師、看護師などの免許を持っていない者による医業は、医師法第17条、歯科医師法第17条及び保健師助産師看護師法第31条その他の関係法規によって禁止されているため、あくまで解釈通知で限定された行為が可能となりました。

  • 水銀・電子体温計で体温を測る・耳式電子体温計を使って外耳道から体温を測る
  • 自動血圧測定器を使って血圧を測定する
  • 新生児以外で入院治療の必要がない者に対してパルスオキシメータを使って動脈血酸素飽和度を測る
  • 軽い切り傷や擦り傷など専門的な判断や技術がいらない処置を行う
  • 汚物で汚れたガーゼの交換を行う
  • 褥瘡の処置以外で皮膚疾患へ軟膏を塗る
  • シップを貼る
  • 点眼を行う
  • 一包化された内用薬の服薬介助を行う
  • 肛門へ坐薬を挿入する
  • 鼻腔粘膜へ薬剤を噴霧する

併せて厚生労働省の通知において、以下の介助は規制対象外として異常がないことが前提で行うことが認められています。

  • 爪を切る・爪周辺のやすりがけを行う(爪に異常がない、化膿や炎症がないことが前提)
  • 歯ブラシや綿棒などを使って歯や粘膜、舌に付着している汚れを取り除き、清潔にする
  • 耳垢の掃除を行う(耳垢塞栓の除去はできない)
  • ストマ装具のパウチにたまった排泄物を捨てる
  • 自己導尿の補助するため、カテーテルの準備や体位の保持を行う
  • 市販のディスポーザブルグリセリン浣腸器を使って浣腸を行う

厚生労働省により「医療行為に該当しない」とされている10項目、「規制対象外」とされている6項目はどちらも利用者の状態が安定していることが条件です。異常や状態が不安定な場合、介護士が行うことはできないため、注意しましょう。

介護士が行える医療行為
介護士が行える医療行為

※上記は一部抜粋。使用器具や、利用者の状態等に条件がある。

介護福祉士が行える医療行為

平成24年4月より「社会福祉士及び介護福祉士法」が一部改正され、介護福祉士及び一定の研修を受けた介護職員などは、医師の指示、看護師などとの連携のもとで、「痰の吸引」、「胃ろう又は腸ろう・経鼻経管栄養」以上2種類の医療行為が行えるようになりました

実際、追加の研修を受けずに医療行為が行えるのは、平成27年度以降の介護福祉士です。制度改正後は養成課程で、医療行為に関する基本研修が講義50時間と痰の吸引、経管栄養それぞれの行為のシミュレーター演習、実地研修が行われます。改めて「喀痰吸引等研修」を受ける必要はありません。ただし、養成課程の中で実地研修が行われなかった場合は就業後、必要な行為ごとの実地研修を受ける必要があります。

喀痰吸引等研修とは

平成27年度以前の介護福祉士や初任者研修修了の介護職員などが、法改正によって介護士が実施できるようになった「たんの吸引等」の行為を行うために受けなければ認められない研修になります。

喀痰吸引等研修は、第1号、第2号、第3号の3つの研修に分けられます。指導者は、国が行っている医療的ケア教員講習会を受講した看護師、保健師、助産師、医師です。研修内容や講義時間、実地研修によって可能な医療行為や対象者の範囲が異なります。

研修の種類可能な医療行為対象者
第1号研修

【基本研修】
講義50時間
各行為のシミュレーター演習

実地研修

  • 口腔内、鼻腔内、気管カニューレ内部すべてからの喀痰吸引
  • 胃ろう、腸ろう、経鼻すべての経管栄養
不特定多数の人
第2号研修

【基本研修】
講義50時間
各行為のシミュレーター演習

実地研修
(気管カニューレ内吸引、経鼻経管栄養の研修はなし)

  • 口腔内、鼻腔内の喀痰吸引
  • 胃ろう、腸ろうからの経管栄養
不特定多数の人
第3号研修

【基本研修】
講義及び演習9時間
(重度訪問介護従事者養成研修と併せて行う場合は20.5時間)

実地研修
特定の人に対する必要な行為のみ対応

  • 口腔内、鼻腔内、気管カニューレ内部すべてからの喀痰吸引
  • 胃ろう、腸ろう、経鼻すべての経管栄養
 特定の人
筋萎縮性側索硬化症(ALS)、筋ジストロフィー、重症心身障害などを患っている療養患者や障害者など

基本研修が終わると修得できているかの筆記試験があります。第1号研修と第2号研修は30問、第3号研修は20問の問題が出題され、9割以上の正解率が求められます。筆記試験の正解率が9割以下の場合、再度、講義の全過程を受講させることが定められており、安全に実施できるように考えられています。

筆記試験の他に演習修了段階、実地研修の修了段階で評価が実施されます。知識と技能を修得して研修修了が認められて『認定特定行為業務従事者認定証』が発行されます

介護士が行えない医療行為

医療行為は、医師の医学的判断や技術のもとでなければ人体に危害を及ぼす、または及ぼす恐れがあるとされています。そのため、医師や看護師の監督や指導のもとであっても判断が必要な医療行為を介護士が行うことはできません。具体的な行為は6項目があげられます。

1.床ずれ、褥瘡の処置

患部の状態に合わせて処置をする必要があるため、直接、その部位の消毒や薬の塗布は行うことはできません。例えば、褥瘡のある利用者へ訪問介護として排泄介助を行う場合、医師や看護師のように患部の処置を行うことはできませんが、汚物で汚れたガーゼを交換し、新しいオムツをつけることは可能です。

2.摘便

排便のない人に対して肛門から指などで腸内の便をかき出す行為ですが、腸壁に傷をつけてしまう恐れがあるため、行うことはできません。傷の程度によって大量出血や感染を起こす危険があります。

3.インシュリン注射

注射は身体に直接行う行為のため、行うことはできません。介護士ができることは、利用者本人が自己注射を行う際の物品準備や単位数の確認は可能です。

4.血糖測定

身体に直接針を刺して行うため、行うことはできません。インシュリン注射と同様に利用者本人が行うことに対して補助や測定値の確認は可能です。

5.在宅酸素の取り扱い

在宅酸素の機械は目盛りがついており、操作が簡単なように思えますが、酸素量の調整が必要なため、取り扱うことはできません。酸素量が多くても少なくても身体に大きな影響を与えます。在宅酸素の機械だけでなく、カニューレのつけ替え、酸素ボンベ交換も手順を間違えると、必要な酸素量が流れない恐れがあるため、危険です。

6.点滴

身体に直接針を刺して行うため、行うことはできません。滴下の速度調整も利用者の状態によって異なるので禁止されています。

介護士が行えない医療行為
介護士が行えない医療行為

上記の医療行為は認められていない。ただし、準備や確認など、一部可能な行為もある。

介護施設で医療行為を行う場合

医療行為は原則、医師又は医師の指示を受けた看護師が行うものです。一方で医療が発達し、介護施設において、医師の指示を受けた看護師によって行える具体的な医療行為は、以下のことがあげられます。

  • インシュリン注射を打つ
  • 中心静脈栄養を行う
  • 胃ろう、腸ろう、鼻腔、すべての経管栄養から栄養を流す
  • 痰の吸引を行う
  • 人工呼吸器の管理を行う
  • 在宅酸素の管理を行う
  • 褥瘡の処置

介護士の医療行為に関して、喀痰吸引等研修が整備されるまでは痰の吸引が必要な入所者はいるが、看護師が不在の時間も多く、誰がたんの吸引を行うのか曖昧でした。また介護職員平成24年4月からは喀痰吸引等研修が整備され、介護福祉士(平成27年度以降に資格取得)や一定の教育を受けた介護職員などによるたんの吸引等の実施が可能になりました。

一方で、介護保険施設の中で老人保健施設や介護医療院、介護療養型医療施設は医療専門職と介護士が24時間体制で支えているため、24時間の医療行為が可能です。しかし特別養護老人ホームや有料老人ホームなどは施設によって医師や看護師など医療専門職が日勤帯だけの勤務が多く、行える医療行為に限界があります。そのため、上記の医療行為が介護施設で可能とはなっていますが、全施設で提供可能と至っていないのが現状です。

現在、国が目指している地域包括ケアシステムでは、医療、介護、予防、住まい、生活支援サービスの連携により地域で自立した生活が営めるように進められています。今後、利用者のため、介護と医療の関係がより密になり、単身や重度の要介護者に対応できるように24時間対応の定期巡回・随時対応サービスや複合型サービスの創設が進められています

原則、介護士は医療行為を行なうことはできない

重要なことなので何度も記載しますが、介護士が行えるのは、厚生労働省が通知した「医療行為でないもの」に挙げられたものに限られます。研修を受けた介護福祉士のみが喀痰吸引等の医療行為を行なえるのを理解し、業務の中で実践することです。

記事中でも解説したとおり、点滴や血糖測定などの医療に関するケアに関しては、専門知識を有する看護師が行なわなければいけないことを頭にいれておくことです。

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