ICFは参加制約を理解し、個々の社会参加における問題点への介入や予防措置を取るだけでもQOL(生活の質)は改善へと導けます。問題を抱える当事者、家族、彼らに関わる専門家たちの共通認識としてICFを活用し問題点を把握して、社会へ一歩踏み出すアプローチ方法をご紹介します。
目次
ICFモデルの参加制約とは?
ICFモデルの参加制約は、医療や福祉業界において広く用いられるICF概念のうちのひとつです。支援者は、対象者の社会参加の制約が把握できたら、個人だけではなく、社会に対してアプローチをすることが大切です。
ICFとICFモデルとは?
ICFは、 2001年5月世界保健機関が採択した新しい生活機能分類です。 2001年に分類の視点として生活モデルを取り入れ、健康状態や環境因子、個人因子が相互に影響し合い、人間が生きることを全体的にとらえる新しい機能分類モデルとして、ICFモデルが採択されました。
ICFモデルを図にすると次のようになります。


ICFの概念が、今までのICIDHと異なる特徴は、次の3点となります。
- ポジティブ思考による評価をおこなう
- 一つの分類にとらわれる、全体を俯瞰して捉える
- 各分類の相互作用に注目する
なお、具体的な各分類の順列や矢印の長さなどは関係ありません。
それぞれの分類の特徴については次の表を参考にしてください。
要 素 | 特 徴 |
心身機能・構造 | 生命の維持に直接関する事や、心と体の動きに関することを記載します。 (記載例)
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活 動 | 生活をおこなう上での一連の行為を記載します。歩行やその他の日常生活行為だけでなく、調理・掃除などの家事・余暇活動に必要な行為、社会生活上必要な行為すべての状況を把握します。自分でできているプラス面と、制限されているネガティブ面両方の情報を記載すると、支援計画に活用しやすくなります。 (記載例)
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参 加 | 家庭や地域社会での役割に関する事を記載します。趣味や地域での活動、参加の状況・文化的または宗教的な活動への参加の状況を確認します。活動と参加の記載区分について、明確な基準はありませんが、参加項目については、家族以外の人や地域とのつながり、役割を確認します。ICFは参加の充実度を評価する生活モデルをもとにしています。 (記載例)
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背景因子 | 環境因子とは、モノ・人・社会などあらゆるものを想定しており、社会資源として活用できるもの全てです。 (記載例)
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個人因子とは年齢や性別、生活歴、ライフスタイルなど対象者個人に関する情報を記載します。ICFでは、環境因子、個人因子のふたつを背景因子としてとらえ、QOLの向上にとって欠かせない要素として位置づけています。 (記載例)
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健康状態 | 病気やケガなど、健康状態に関する内容を記載します。疾患名や既往歴に関する情報や、高血圧や肥満、ストレスの状況なども把握しておくことで、疾病予防の視点も兼ね備えています。 (記載例)
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ICFモデルにおける参加制約の位置づけ
ICFモデルでは、生活機能の参加について「人と人とのつながり」という視点で捉えています。 参加制約とは、個人が生活や人生場面に関わる際に地域や役割活動に何らかの規制または不具合が生じていることを意味します。人間としての生活に注目するICFでは、生きる中で誰かと関わり役割のある生活を送ることを評価のひとつにしていますので、参加の有無が心身の健康につながっていると考えます。個人によって差があり、必ずしも健康状態が良好であるからといって参加の機会が無いということではありません。また、複数の疾患を抱えていても、参加できる場面が確保されていることで身体機能や活動の機会が確保されている人はあります。
ICF参加制約の具体例と対処法
ICFモデルの特徴は、人間の生活機能を評価して環境面を含めた各要素の相互作用に期待をする点です。 そこには生活の中でどんな参加の場面があり、地域とどのようにつながっているのかという役割を重視しています。また、ICFは個別性を重視するので、同じ病気でも生活課題が異なる場合、背景にある環境にアセスメントをおこない対象者個人にとって最適な支援を提供することができます。
健康状態から想定できる参加制約の具体例
日常生活を送るうえで、疾患や障害の程度により参加することを制約される人があります。
生活機能の中で参加を評価する際は、環境因子、個人因子に対して別々の視点が必要になります。
(環境因子への視点)
- 家庭や地域社会に本人の役割があるか
- 身近な地域で趣味や地域活動があるか(資源の把握)
- 活動の場に出向く方法があるか(移動手段など)
(個人因子への視点)
- 本人が地域活動に出向く意思があるか
- でかけるだけの体力があるか
- 人との交流の機会があるか
障害への介入と予防方法
生活機能に対して境因子や個人因子がプラスの影響を与えている時は、促進因子として評価します。一方、マイナスとしての影響を与えている場合は、阻害因子として改善方法がないかを考えます。
ICFの特徴のひとつに、各項目の相互作用に注目するというのがありますので、生活全体を捉えた時に、生活の質が向上しているかを確認しながら、それぞれの強みをいかすことが、状態の改善や予防につながります。
ICF参加制約解決へのICFモデルを用いた事例検討
ICFを活用して生活機能を評価したときに、参加制約がみられたとしてもその原因が必ずしも一つの項目にあるとは限りません。例えば対象者の地域にバスがないといった課題に加え、筋力低下という身体上の負担が重なると、解決方法が複数になる場合があります。
今から紹介する事例は、世代も疾患も異なりますが参加にむけた解決課程から、ICFの特徴を理解してみましょう。
事例-1.脳性まひ児の外出支援へのICFモデルの活用例
両手でクラッチ式杖を使用すれば自分で移動するこができます。Aさんの地域はお店が少なく定期的なバスはありますが、転倒が怖くて乗ったことがありません。好きなゲームを買いに行きたいと思っていますが怖くて行けません。

現状をICFのモデル図で表すとこのようになります。
Aさんは好きなゲームを買いに行きたいという希望がありながら、バスに乗ることができず、参加が制限された状態にあります。
ICFは診断名ではなく生活の困難さを重視するので、どうすればゲームが買いに行けるか、という目的を達成する視点で分析していきます。

ICIDHの視点では、買物に行く、という目標を達成するには、身体機能の回復や疾患の改善が前提になっていましたので、機能回復が見込まれない以上Aさんはいつまでもゲームを買いに行くことができませんでした。
ICFでは各分類が参加の機会を確保するために各要素が欠点を補う、ということが重要になります。Aさんの事例では、心身機能を向上させるために運動の実施や麻痺の軽減をはかることや、杖での歩行を安定しておこない、Aさん自身の活動能力をあげる方法があります。同時に、家族による付き添いやバス会社への協力依頼など、環境面へのアプローチをおこなう事でゲームを買いに外出できることを目指します。
安全な参加の機会を確保し今まで怖いという理由でバスに乗れなかったAさんが、自信を持つことは、今後の生活の質の向上にもつながります。
事例-2.脳梗塞により片麻痺の後遺症が残った高齢者へのICFモデルの活用例

ICFモデルで現在のBさんの状況を分析すると、参加できない要因として、長い距離は歩けない、出かけられないという2点が挙げられます。また外出できないことによって、心身機能に落ち込むことが多くなった、という負の相互作用が生じていることが分かります。
では、Bさんのケースにおいて参加制約を解消する促進因子を考えてみます。

Bさんにとって心身機能・構造に右半身の上下肢麻痺がありますが、左半身は自由に動かせますし、右半身でも使える力は維持されています。参加の機会が不足していたひとつの理由は、長時間の歩行ができないということでしたが、環境因子のひとつとして車いすを使用することにより、操作ができれば身体の負担を軽減して移動することが可能になります。
またそのためには、家から出かけるまでの段差や障害を除去するバリアフリーと、移動するための介護タクシーがあれば制限はなくなります。参加機会が確保され、知人とのおしゃべりが可能になれば心身に影響を与えていた落ち込みも改善することができます。
俯瞰的に問題を捉えていくことが重要
ICFモデルは現在の本人が置かれている状況を俯瞰的・客観的に把握することで、問題解決につながるところに利点があります。また、それぞれの促進因子が課題にアプローチする際には専門職の役割も重要になりますが、図式化されることで、それぞれの役割分担も見えるようになり、必要なサービスや資源の活用が明確になります。
ICFの評価の視点はポジティブ思考で全体を評価するので、できないことや失ったことというマイナス面にこだわるのではありません。相互作用の効果を狙って、使える力がどこかに埋もれていないか、という事を探ることも重要になります。
ポジティブ思考で評価するICFは、活用するすべての人に対して、単に生活機能を評価するだけでなく、課題があっても「前向きに生きる」ことを気付かせてくれるツールなのです。