水分補給で高齢の要介護者の脱水を予防するためには、介護者が注意する必要があります。
要介護者の中には嚥下の難しい人や、認知症により水分補給を忘れてしまう人がいるため、食事や間食の時間を設けて勧めたり、介護者が飲み物の介助を行うなどの状態に合わせて水分補給をさせる必要があります。
高齢者の脱水は若者よりも重症化しやすく、最悪命に関わることもあるので、皮膚や口内の乾燥に気を付け、脱水を予防するために適切な方法で水分補給を行うことが大切です。
目次
水分補給が高齢の要介護者にとって重要な理由
水分補給は高齢の要介護者にとって重要です。
人間の体の半分以上が水分でできています。もし、体の水分摂取量が20%不足すると、命の危険があります。
20%で死亡の恐れ
水分摂取量が不足すると重大な事故や健康障害をきたす可能性があります。児童・生徒を中心に起きているスポーツ中の熱中症や、中高年で多発する脳梗塞、心筋梗塞なども水分摂取量不足がリスク要因の一つといわれています。
(引用:「健康のため水を飲もう講座」|厚生労働省)
特に、高齢者の場合は若者よりも身体機能が低下していることが原因で、病気や頻尿で水分摂取量が不足しやすく脱水症の危険があります。対策として、高齢者の体について知ることが大切です。
脱水症が重症化しやすいから
高齢者の脱水症は重症化しやすいです。
高齢者の脱水の特徴
①高齢者は脱水が起きやすい生理機能と脱水をもたらす要因を多く持っているので、脱水になりやすい
②生理機能が低下しているので、脱水がきっかけで意識障害をきたしたり、基礎疾患の悪化を起こしたりすることがある
③自覚症状が乏しく、初期に発見することが難しい
(引用:高齢者の身体と疾病の特徴|日本医師会)
特に、
- 筋肉量の低下により体力が落ちやすい
- 認知症により体の感覚が鈍くなる
この2つの原因により、うまく他者へ自分の状態変化を伝えられない場合があります。
筋肉は体力の源でもありますが、水分を貯蔵する機能もあります。
ですが、加齢により筋肉量が低下することで、水分を貯めておくことが厳しくなり、脱水に陥りやすいので注意が必要です。
そして、高齢者は生理機能の低下や認知症などで体の感覚が鈍くなり、若者ならのどが渇いて水を欲する状態であっても自覚症状が乏しいので、家族や介護者が状態変化に気づいて水分補給を促すといった対策をしないと重症化する恐れもあります。なので、脱水の初期段階で発見することが大切になります。
初期の段階で本人の自覚症状の乏しさや家族や介護者が脱水症状を見つけられないなどの原因で発見が遅れてしまった場合、下記のような症状があらわれます。
- 体内の血液が濃い状態になる
- 血液のかたまりができ、血液と一緒に体を巡る
- 脳の血管に詰まると脳梗塞、心臓の血管に詰まると心筋梗塞の原因になる
体の水分量が減ることで、命を落とす危険があるので水分補給によって脱水を予防することは高齢者の体にとって重要な意味を持っています。
のどの渇きを感じにくいから
高齢になると脳の視床下部にある口渇中枢が衰え、のどの渇きが覚えにくくなります。
のどの乾きがわからなく、自覚のないうちに脱水に陥る危険が高まっています。なので、のどの渇きがわからない要介護の高齢者の場合は、介護者が水分補給の大切さを説明し、注意しておくことで脱水を防げます。
水分の排出量が多いから
高齢者は腎機能の低下や、利尿作用のある薬を服薬することにより水分の排出量が多く、脱水になりやすくなります。
筋肉量の低下もあり、体内に貯蔵できる水分量も減っているため、より気をつけて水分補給をする必要があります。
1日あたり2L(リットル)くらい水分補給した方が良いと聞いたことがあるでしょう。理由は、体重1kgあたり30〜40mlの水分量を目安とすると、体重50kgの人は1.5〜2Lの水分が1日に必要になるからです。
なので、
- 要介護者の体重×約30〜40mlの水分量
- 食べ物に含まれる水分(約600ml)
- 代謝水(約300ml)
を合わせた水分量を勧めるようにして脱水に注意します。
水などの液体を飲むことが難しい人は、フルーツやゼリー類などの液体を凝固させたものを進める工夫が必要です。
ですが、腎不全などの腎機能が低下する病気の人で水分を取りすぎると、
- むくみ
- 体重増加
- 呼吸困難
- 血圧上昇
などの症状が出て、心不全や高血圧などの原因になります。
心不全になると、
- 体内の水分量のバランスがくずれる
- 必要以上に水分を体に溜め込んでしまう
- むくみや呼吸困難、動悸などの症状が出る
などの症状が出て、心臓のポンプの機能が弱り続けると命の危険が出てきます。
なので、水分を取りすぎることで様々な病気の要因になり、水分摂取量や内服調整をすることが必要になります。
腎不全、心不全などの原因で腎臓病や心臓病などの病気がある人は必ず医師に水分量の相談をしてから摂取量を調節してください。
内蔵機能が低下しているから
高齢になり腎臓の機能が低下すると頻尿になります。
腎臓には、老廃物や塩分を排出し体内のナトリウム量を調節する機能があります。
ですが、腎臓の機能が低下すると、ナトリウムの排泄がうまくできなくなるため、ナトリウムを適量まで排泄するために頻尿になります。
日中で体内の適量まで排出できなかった場合は夜間も目が覚めてトイレに行くので、夜間も頻尿になります。
ナトリウムと一緒に水分も多く排出されるため、多くの水分を取る必要があります。
頻尿を煩わしく感じたりすると水分を取ることを避けてしまうことが多く、のどの渇きなどの自覚症状の薄さからも脱水だけでなく他の病気にもなりやすいので注意が必要です。
利尿作用のある薬を服用しているから
糖尿病や血圧の薬を飲んでいる場合、利尿作用のある薬が処方されていることがあります。なので、一層の注意が必要です。
家族に要介護者がいる場合は、家族が薬の管理をするケースが多いです。
薬を処方される時に、薬と薬の名称、効能や副作用が記載されている説明書をもらいます。
糖尿病や血圧の薬以外も利尿作用がある薬も記載してある場合があり、確認が必要です。
利尿作用のある薬がわからない場合は、医師に確認すると良いでしょう。
また、薬の種類によっては軽度の脱水でも重症化することがあるので、要介護者の服薬の情報は、家族、ヘルパー間で共有しておく必要があります。
高齢の要介護者に水分補給させるコツ
高齢者に水分補給させるコツについて述べます。要介護者の状態や病状によって適切な水分補給の方法は異なりますが、以下の3つの方法がおすすめです。
- 水分を取る目的を教える
- 定時に少量ずつ補給する
- トイレの不安を取り除く
水分を取る目的を教えること
水分を何故取らなければならないのかをしっかりと教えることが必要になります。難しすぎる言葉で説明すると高齢者も混乱してしまうので、簡単にわかりやすく伝えると良いです。
- 脱水になると命が危ない
- 意識が飛んで倒れてしまう
- 見えないものや聞こえない音が聞こえる(幻覚と幻聴のこと)
などと教えてあげて、感情にも訴えるとさらに良いです。
脱水になって倒れてしまうと私は悲しくなる。元気な姿をずっと見ていたいなどと伝えることも大切です。
定時に少量ずつ補給すること
体重50kgの人は1日に1.5〜2Lの水分量が必要です。定時に少量ずつ水分を補給しましょう。
8時、10時、12時、15時、18時などの食事と間食時にコップ1杯の水分(約200ml)を飲んでもらうと約1000mlになります。
そして、食事で取れる水分量は、1日に摂取するKcalの40%ほどになります。
病状により食事量は調節しているので、一概に言えませんが、高齢者施設の平均は1日1500kcalなので、食事から摂れる水分量は600mlとします。
代謝水(約300ml)を合わせて合計すると、約1900mlとなるので目安分の水分を摂取できます。

水やお茶などの水分でムセが出るような嚥下状態の悪い人は水分にとろみを付けたり、液体を凝固したものを提供することが必要になります。
ですが、体重の上下や病気により目安の水分量は変化するので医師と相談しながら水分量を変えていくと良いです。
トイレの不安を取り除くこと
腎臓の機能低下で頻尿になり、トイレに行く回数も必然と増えます。
何回もトイレに行くことがおっくうになる人や、トイレに行くために介護が必要な人は、めんどうくささや手伝ってもらうわずらわしさを感じてしまい、なるべくトイレに行かないように水分を控える人が出てきます。
なので、トイレに行くことに対して不安を取り除いて上げると良いです。
要介護者に対して、壁に張り紙をしてトイレのある場所を教えることや、ドアの開け閉めやズボンの上げ下げに対してめんどうに感じる人もいるので、必要に応じて介助してあげると良いです。
何回もトイレに行くことを申し訳なく感じる人もいますが、
- 水分を取らないで倒れるよりも、トイレにたくさん行って欲しい
- 間に合わなくても私が手伝うので大丈夫
などと言葉をかけることが大切です。
座位が可能なら飲みやすい前傾姿勢を取らせる
座位が可能な要介護者の場合、両足をついて重心を前にした前傾姿勢で飲み物を飲むのが良いです。

足が浮いていたり、重心が後ろに傾いていると誤嚥する恐れがあり危険です。
座位が難しい場合でも、経口摂取させるのなら、ベッドやクッションなどを用いてできるだけ座位の姿勢に近付けると良いです。

図のように、背中や空間が空いてしまう所にクッションなどを使用することをおすすめします。
意識がはっきりした状態で水分補給する
意識がはっきりした状態で水分補給をしないと誤嚥の危険が高まります。
傾眠とは、ずっとウトウトしているように見える軽度の意識障害のことであり、わかりやすい例をあげると、肩を軽く叩いたり声をかけると意識を取り戻せる状態です。
傾眠のまま飲み物を飲んでしまうと誤嚥の危険が高まります。
また、認知症により飲み物を違う物だと認識してしまい介護者が大丈夫と思い提供しても、飲み物と認識できずに大きくムセてしまい、誤嚥する危険もあります。
なので、介護者が大丈夫と思っても要介護者が傾眠していたり、飲み物として認識しているのかしっかり確認することが大切です。
きちんと覚醒させ、意識が飲み物にある状態で水分補給をすることが必要です。
とろみをつけて誤嚥を防ぐ
高齢になると嚥下機能が低下し、液体などさらさらしたものを飲み込みにくくなります。なので、とろみをつけることで誤嚥を予防します。
嚥下機能の低下初期は、とろみ剤を薄く入れてポタージュ状で提供すると良いですが、中期〜後期にかけて咽が出てくるようならとろみ剤の量を調節します。
とろみを多くつけ過ぎてしまうと喉に引っ掛かってしまい窒息の危険があるので量の調節は慎重にしてください。
かたくり粉でも良いですが、とろみをつける介護用品も多く販売されているので、家族の方はケアマネや医者に相談してみると良いです。
冷たい飲みものを避ける
高齢者は胃が弱っている場合があり、胃痙攣などを起こすことがあるので、冷たい飲みものを避けて胃を刺激しない常温か温かい飲み物を提供することが望ましいです。
胃痙攣とは、病名ではなく胃の筋肉が痙攣を起こし、神経を刺激することで起こります。
胃痙攣は症状であり、胃潰瘍、胃がん、十二指腸潰瘍などの病気が隠れている場合もあるので、医師に相談することも必要です。
利尿作用のあるものを避ける
お茶やコーヒーなどに含まれるカフェインには利尿作用があり、体内の水分が排出されやすくなるため、水分補給の飲み物としては適していません。
要介護者が飲みたがる場合は、水分補給ではなく嗜好品として楽しむか、ノンカフェインのものを用意すると良いです。
カフェイン入りの飲み物 | ノンカフェインの飲み物 |
コーヒー | 麦茶 |
抹茶 | はとむぎ茶 |
緑茶 | そば茶 |
ほうじ茶 | どくだみ茶 |
ココア | ルイボスティー |
基本カフェインの入っている飲み物でも、ノンカフェインで売っている物もあります。
なので、お茶やコーヒーなどを飲みたい要介護者の場合はノンカフェインのものを提供すると良いです。
本人の好みを把握しておく
あまり水分を取りたがらない場合は、本人の好きな飲み物やゼリー類など好みを把握しておくことが大切です。
吸収率の良い経口補水液は水分補給には最適ですが、本人が飲みたがらなければ意味がありません。
経口補水液が好きな人もいれば、苦手な人もいます。
本人の飲みにくい飲み物を進め続けると、水分補給がおっくうになり、水分摂取量が減り脱水になる危険が高まります。
ご飯や食パンなどの食べ物にも水分は含まれていますが、野菜や果物の方が水分含有量が多いので、野菜や果物を勧めてみる方法もあります。
野菜&果物 水分 きゅうり 95.4g トマト 94g キャベツ 92.7g すいか 89.6g もも 88.7g りんご 84.1g
先に本人が飲みたい物、飲みやすい物を勧めてみて飲まない場合は、水分含有量が多い野菜や果物を勧めて少しでも水分摂取量を増やすことが大切です。
好きな野菜や果物を食べてもらい、その間にお茶や好きな飲み物を勧めるなどの工夫をすることで、結果的に多く水分を取ってもらえることにつながります。
ですが、腎不全、心不全などの原因で腎臓や心臓に病気などのある人は水分や塩分に制限があるので、医師に飲水可能な飲み物、食べ物を確認することが大切です。
最低限覚えておきたい脱水症初期のサイン
重度化すると、幻覚や、昏睡、痙攣、呼吸困難、意識障害など命の危険が高まるので、初期の段階で対応することが必要です。
初期症状として、
- 唇や口内の乾燥
- めまいやふらつき
- 倦怠感や脱力感
の3つがあります。

これらの症状が表れる時には脱水症を疑い、すぐに水分補給を行ってください。
唇や口内の乾燥
唇や口内が乾燥しているときは脱水症の恐れがあります。
唇の乾燥の目安は、パサパサしていたり亀裂が入っている状態です。普段から見える唇に注意を払って確認して下さい。

異変を感じたら口内を確認し、唾液の粘り気が強くなり舌も乾燥している場合は脱水を疑い、皮膚の乾燥やめまいなど他の初期症状を確認することが大切です。
めまいやふらつき
めまいやふらつきは脱水の初期症状のひとつです。服用している薬によっては一番強く出る症状でもあります。
普段は問題なく歩けている人でも、脱水症になりめまいやふらつきが出てしまうと転倒の恐れもあり危険です。
注意深く見ておき、普段よりも活気がないなどの異変を感じたらすぐに支えて座らせてめまいがあるか確認してください。
倦怠感や脱力感
脱水は倦怠感や脱力感として表れることもあります。高齢者の場合、自分の不調をうまく表現ができず、人に伝えられないことがあります。
いつもよりぼーっとしていたり、傾眠傾向(ウトウトしているように見える軽度の意識障害)がある時は、脱水かもしれません。
傾眠傾向は脱水でなくとも他の病気の可能性があり、見過ごしてはならない症状です。
主な原因として、3つ表にします。
認知症 | 症状の1つに昼夜逆転からくる睡眠不足が原因 |
慢性硬膜下血腫 | 脳疾患の一つで、外科手術が必要となるため早期発見が必要 |
薬の副作用 | 抗不安薬、抗てんかん薬、吐き気止めなど |
脱水以外でも他の病気の可能性があり、慢性硬膜下血腫の場合は手術が必要となるので早期の発見が必要です。
水分補給をして要介護者の脱水症を予防する
高齢者にとって脱水症は危険な状態になる可能性があり、要介護者に合わせた水分補給の方法で予防することが大切です。
高齢者は、体の感覚が鈍くなりうまく他者へ自分の状態変化を伝えられない場合があるため、脱水が重症化しやすく若者よりも命の危険があります。
ですが、腎機能の低下や利尿作用のある薬を服薬することにより頻尿になりトイレに行くことがおっくうになってしまうと、水分補給をためらうなどの悪循環に陥りやすくなります。
水分補給が苦手な人に水分を勧めても拒否する場合があります。
その時は、本人が飲みたい物、飲みやすい物を優先的に飲んでもらい、できるだけ1日の水分量を増やす工夫をしてください。
家族に要介護者がいるの場合は、自分で何とかしなければと思う人がいます。
1人で抱え込んでしまうと、ケンカをしてしまう可能性もあり最悪望まない虐待をする危険もあります。
なので、水分補給が難しいと感じたら医師やケアマネに相談して水分補給を勧められる環境を作ることが大切です。