介護業界に興味があっても不安や戸惑いは尽きませんよね。未知の世界へ踏み出す一歩はとても勇気のいることです。
私自身、福祉業界で約20年働いていますが、最初の就職は緊張と不安で押しつぶされそうだったことを今でも覚えています。
この記事では、経験をもとに介護への転職を考えている未経験の人に知ってもらいたいことをまとめました。介護業界は人手不足が深刻です。ぜひ参考にして自分に合った職場を見つけてくださいね。
目次
介護業界の現状

日本の人口は,平成30年度版高齢社会白書によると、2017年10月1日現在、1憶2,671万人。うち65歳以上人口は3515万人、高齢化率は27.7%となっており、急速に高齢化が進んでいます。介護保険の認定者数は、介護保険が始まった2000年は218万人に対して2017年は633万人と2.9倍となっており、介護が必要な人が増えています。
現状でも高齢者が増えている中、さらに団塊の世代が75歳以上となる2025年には37.7万人の介護人材が不足すると言われています。一方で、現時点で人手不足は続いているため、多くの介護保険施設で頭を抱える問題です。そのため、介護の仕事は未経験であっても介護に就きたいと気持ちがある人は求められると言えるでしょう。
介護への転職で知っておきたい10のこと
未経験から転職する際は以下のことに気をつけましょう。
1.介護は接客業
私たち介護を提供する側は、機械を相手にするわけではなく、介護を受ける側は人であり、介護は接客業の原点です。ともに人だからこそ、感謝や愛情、嬉しい、悲しいなどいろいろな感情が生まれます。
未経験の人は介護を知らない分、特別な存在に思うかもしれません。しかし、介護が必要な人も自分たちと同じ人です。自分たちが嬉しいと思うことは嬉しく、また悲しいと思うことは悲しく思います。同じ人として接することが大切であり、接客の極意であることを覚えておきましょう。
2.30代以上の未経験者でも働ける
介護の仕事は年齢に関係なく、やりたいと思ったときから働けるため、30代に限らず、40代や50代から飛び込む人もいます。そのため、経験がなくても働くことはできます。
一方で福祉系の学校を卒業して働いている人も大勢います。資格を持って働くことで若くしてフロアリーダーなど現場をまとめる立場を任されていることがあります。仕事を始めるにあたってはやる気であり、年齢は関係ありませんが、上司や指導担当が年下の職員であっても仕事に真摯に向き合えるかが大切です。
私は管理者という立場で人事にも携わっています。介護現場では、私より年上の介護職が大勢います。また採用面接でも同様に年上の人に対して面接することがあります。その際に気をつけているのは、年齢に関係なく、人と協力して仕事がしていけるか否かです。
口では「年齢は関係ない」、「年下であっても先輩に変わりがない」と言いますが、面接をしていると他業種でのキャリアを自慢する人がいます。自分のキャリアを自慢する人は経験上、年下の職員を先輩として見ていないことが多く、採用側では注意して行動を観察していることを覚えておきましょう。
3.資格がなくても働ける
介護は医師や看護師のように資格がないとその業務に就くことができない独占資格ではないため、資格がなくても働くことはできます。働きながら資格取得を目指すのもよいでしょう。
一方で未経験のため、わからないことが多く不安だと思うのであれば、介護職員初任者研修など介護の基礎を学んでから仕事に就くことをお勧めします。ハローワークでは再就職支援として無料で講座が年に数回開催されています。資格の取得方法は事前に調べておくと安心です。
また転職時に資格を持っていなくても最終的には介護福祉士を目指しましょう。介護福祉士は介護の国家資格です。長く介護士の仕事を続けていくのであれば、知識や技術をしっかり身につけることは大切です。国家資格を持っていることで介護を受ける相手が安心する場面も出てくるでしょう。介護福祉士は、介護現場での実務経験3年以上と介護実務者研修を修了することで国家試験を受けることができます。
給与面で資格手当がつく、キャリアアップにつながる、時給が異なるなどといった介護施設もあるため、資格がなくて働き始めた人も最終目標は介護福祉士取得です。がんばって資格取得をめざしましょう。
4.未経験から正社員になれる
高齢化に対応するべく介護施設が多くできているため、未経験であっても正社員として募集している事業所はあり、可能です。しかし正社員になりたいばかりに施設のことをわからずに決めてしまうと後悔する恐れがあります。
ハローワークなどで十分調べてから決める、また転職サイトなどへ登録し、アドバイスを受けるとよいでしょう。なかなか自分の働きたい条件を満たす介護施設を探すことは大変で労力がかかります。その点、転職サイトへ登録すると専任のコーディネーターが付き、就職までサポートしてくれるため、利用する人は多いです。
また事業所によって最初は契約社員から始まるところもあります。1年など事業所によって期間は異なりますが、契約更新が行われます。その他、無資格の場合は契約社員から始まり、資格取得によって正社員に登用されるなどさまざまです。
その他の働き方としては、派遣社員として働くこともできます。派遣社員の場合、働く時間や曜日など雇用条件などの交渉はすべて派遣会社が行います。
派遣社員は「有期雇用派遣」と「無期雇用派遣」の2つにわかれます。「有期雇用派遣」は、同一の業務で雇用期間が最長3年という制限があります。「無期雇用派遣」は雇用期間に制限は設けられていません。
働き方はさまざまです。長く続けられる方法を自分で見つけることが大切です。
5.身体が資本、体力は必要
24時間365日の介護を支える施設も多く、働く職員は早出、日勤、遅出、夜勤など変則勤務で介護を行っているため、体力は必要です。働く職員が身体を壊してしまっては続けられないので気をつけましょう。
一方で、介護は力仕事と思っている人も多いですが、力仕事ではありません。動けない人を無理やり車イスに乗せる、ベッドへ寝かせる、トイレに座らせるなど力任せに介護を行うと、介護職の身体が壊れてしまいます。ボディメカニクスの原理などを使い、重心を低くして行うのが介護の基本です。体力と力は異なります。長く仕事を続けていくためには体力づくりが欠かせませんが力仕事ではないことを覚えておいてください。
6.楽な仕事ではない
給与をもらって働く仕事は介護に限らず、どのような仕事でも大変です。介護の仕事は3K(きつい、汚い、給与が安い)などと言われてきた背景があります。自分で動くことができない人の介護をすることは容易ではありません。
一方で介護技術の向上、また福祉用具の機能もあがりました。そのため、仕事が楽になったとは言えませんが、利用者のことを考えつつ、介護士の安全などが守られるようになってきたのも事実です。介護施設では安全衛生についても考えられるようになり、介護士の腰痛対策やメンタルヘルスなどに気を配り、働きやすい職場環境をめざしています。
7.施設は多岐にわたるためよく調べて特徴を知る
介護保険制度において介護サービスは、居宅サービス、施設サービス、地域密着型サービスの3つがあります。それぞれのサービスの特徴は以下のことがあげられます。
【居宅サービス】
- 自宅などで生活している人に対して身体介護や生活支援を行う訪問介護
- 一時的に事業所などへ通って入浴や食事、リハビリなどを受けるデイサービスやデイケア
- 一定期間の間、介護施設へ宿泊して日常生活全般の介護を受けるショートスティ
- デイサービスなどは朝から夕方までのサービス提供になるため、結婚後も続けやすい
- 子育てをしながら働いている人も多い
- 短時間のパートなどの求人も多い
- 自宅で生活をされているため、介護は比較的軽度な利用者が多い
【施設サービス】
- 要介護3以上の重度者が入所している特別養護老人ホーム
- 自宅と病院の中間施設という位置づけでリハビリを受ける老人保健施設
- 医療的ケアと介護を受けながら療養できる介護療養型医療施設や介護医療院
- 24時間365日介護が必要な利用者が入所しているため、働く職員も24時間対応。早出、日勤、遅出、夜勤など変則勤務。土日祝日、年末年始など関係ない
- 自宅での生活が継続困難で入所されている利用者が多いため、介護は年々重度化している
- 介護の勉強にはなるが、重度者の介護は体力が必要
【地域密着型サービス】
- 住み慣れた地域で生活を継続していくためのサービス
- 一つの事業所で訪問介護、デイサービス、泊まりサービスを一体的に提供している小規模多機能居宅介護支援事業所
- 認知症の人が共同で自分のできることを行いながら介護を受けて生活していくグループホーム
- 地域によって利用者の状況が異なるため、細かいサービス提供が求められる
- 入所事業所は施設サービスと同様に24時間365日の介護が必要な利用者が入居している
- 介護の軽度者から重度者まで幅広く対応している
- 規模が小さい事業所が多いため、少ない職員で日々の介護にあたっている
以上が個々のサービスや勤務の特徴です。事業所によって昼間だけの勤務、ローテーションの変則勤務、夜勤があるなど条件が異なります。自分でどのような働き方ができるのかを考えて事業所選びをしましょう。
働いてみて「こんなはずではなかった」とならないように、興味がある事業所は見学を行うなどしながら求人を探すことが大切です。度重なる転職はよい印象を持たれません。自分のワークバランスが取れる職場をじっくり探すことをお勧めします。
8.面接時の注意点
転職のための面接を受ける際は以下のことに注意しましょう。
1.服装

採用面接を受ける際はスーツが基本です。私服でよいと言われてもTシャツにGパンなどカジュアルになり過ぎないように気をつけましょう。男性の場合、襟のついたシャツやジャケットなど、女性はマネキュアやアクセサリーは控えるほうがよいです。第一印象を大切にし、清潔感が感じられるような身なりを社会人として考えてください。
2.面接で志望動機は必ず聞かれる
未経験での転職の場合、今までのキャリアを辞めて介護の世界へ飛び込む形になるため、介護を志すきっかけを言葉にしましょう。
【例文】
「営業で仕事をしている中で車イスの方と接する機会がありました。自分が何気なく使用しているエレベーターや電気などのスイッチはついている位置によって車イスからでは届かないことを知りました。私たち健常者が当たり前に暮らしていることに不便を感じている人がいることに驚きました。そしてもっとその人達の手伝いがしたい、協力したいという気持ちから介護へ興味が湧き、転職を考えるきっかけになりました」
【例文】
「祖母が骨折をきっかけに車イス生活になり、家族介護が始まりました。慣れないことに戸惑いましたが、リハビリの先生など話を聞き、祖母も家族の一員として生活し、現在に至っています。祖母の介護を通じて、もっと介護が必要な人がたくさんいることを知り、福祉へ持ちました。また祖母がデイサービスへ行って元気になってくる姿を見て、自分も元気を与える側になりたいと思い、介護への転職を決めました」
以上のように、面接では介護をやりたいと思ったきっかけを具体的に述べます。また具体的なきっかけがない人は、なぜ福祉に興味を持ったのか、介護士になりたいと思ったのかを伝えましょう。
その他、以下のことが面接で聞かれることが多いです。
- 前職の退職理由
- 残業や夜勤ができるか否か
- 法人を選んだ理由
- 自己PR
面接時に慌てないためには、事前に考えをまとめておくと安心です。また以上の質問以外に「何か質問はありますか」と会社から面接を受けている側に質問されることもあります。気になることがあれば、もちろん質問できます。しかし、給与や有給休暇など働く前から権利ばかりを主張するとよい印象を持たれないため、採用など具体的な話になってからでも問題ないような質問は控えましょう。
9.動機を明確にする
未経験から介護への転職は大変なことも多いため、どうして介護に就きたいと思ったのかという動機を明確にしておくことが大切です。やりたいことや嬉しいこと、達成感など充実することもありますが、思うようにいかないことや自分は何がやりたかったのかわからなくなるほど大変なこともあります。自分の中で介護をやりたいと思った動機がはっきりしていれば辛いことも乗り越えていけるだけの力になります。
10.社会経験者である強みを生かす
介護職は未経験であっても社会経験者として培ってきたものを強みにしましょう。介護は日常生活をどれだけその人らしく生活できるかにつきます。仕事に取り組む姿勢はどんな仕事でも同じです。仕事の基本である「報告」「連絡」「相談」、時間を守る、体調管理は働く上でのルールであり、マナーと言えます。転職の場合、介護の仕事は初めてであっても他業種でキャリアを積んできているため、社会人としての基本ができることが強みになります。
また結婚や出産、育児も社会経験です。人生の節目を経験しているからこそできる気配りや心遣いがあります。認知症になって家事ができなくなっても夫の帰りをいつも待っている、自分のことがわからなくなってしまっても子どものことはよく覚えている、利用者など介護施設にはいろいろな人が入所されています。結婚の経験があるからこそ夫を待つ妻の気持ち、子育てをしているからわかる子どもの大切さや愛おしさに寄り添えるのは、強みと言えるでしょう。
私から転職の際に気をつけてほしいことは以上になります。未経験でも介護職へ転職することは可能です。働きたいと思ったときが転職のときです。自分を信じて介護の仕事へ飛び込みましょう。やる気のある人を福祉業界は求めています。
働きやすい職場環境選びがあなたを輝かせる
あなたはなぜ介護の仕事を続けているのでしょうか?
日頃から考えることが多すぎていつの間にか忘れてしまっている介護の現場で働く理由。母が祖母の介護を大変そうにしているのを見て介護職を志した人や、障害者の方が当たり前の日常を送れない現実を知って、当時の自分では何も力になれないもどかしさから介護の仕事を志した人もいるでしょう。
現在、あなたが介護の仕事を行っているのは、「人の力になりたい!」と強く思ったからではないのでしょうか?
3K(きつい、汚い、危険)と言われていることを知った上で働き続けているあなたは高齢化社会である日本の誇りです。
介護業界の主役は現場で働くあなた自身です。
あなたをキッカケに、「介護の仕事って楽しいんだよ」「介護ってかっこいいんだよ」と思ってもらえる仲間が増えることを祈っています。
まずはあなた自身が輝ける場所に行きましょう。
世の中は、熱い想いを持って介護の仕事に取り組むあなたのような人材を求めています。