食事介助では、食事の形態と食事を摂取する姿勢に気をつけることで、安全に行うことができます。また、食後の口腔ケアを実施することで、誤嚥や窒息などのリスクも軽減することができます。
目次
食事介助のポイントとリスクの軽減方法
なぜ介助が必要になったのかの要因を知り、要因に合った方法で介助をするとリスクを軽減につながります。具体的な要因としては以下のことがあげられます。
1.加齢による身体機能の衰え
高齢によって身体機能の低下にともない、咀嚼・嚥下機能の低下することです。残存歯や義歯の状況によっても大きく左右されます。また加齢による機能低下は個人によって状態が異なり、どの程度の衰えがあるかを把握する必要があります。
2.疾病、認知症の発症によるもの
脳梗塞などの疾病の後遺症、認知症状悪化にともない、起こることです。身体の器官ではなく、嚥下機能に障害が起こっており、個人の状況に合わせた食事提供が求められます。疾病によって麻痺がある場合、麻痺側は感覚が鈍いため、介助を行う際、温度などに気をつけないと火傷をする恐れがあります。利用者の言葉だけでなく、状況を確認することが介護者として求められます。
3.その他
心理的な要因によって自分で食べられなくなり、介助が必要になるケースがあります。ストレス性胃潰瘍、うつ病があげられます。精神的な要素が強く、簡単に介助が進まないことも多いです。「がんばって食べましょう」「食べないと調子が悪くなる」など利用者に食べることを全面的に声をかけ過ぎると精神的に追い詰めてしまう恐れがあるので、注意しましょう。
以上のような要因を把握し、介助を行う際には、誤嚥や窒息のリスクが大きいことを理解することが介護者として求められます。そして要因を踏まえて介助を行うことがリスクの軽減につながります。
参考「安全な食事援助を目指した取り組み〜アセスメントシートを作成して〜」著 氏家由香子 田中優希 横山明子 大矢幸子 東京医科大学病院看護研究集録
咀嚼・嚥下状態で異なる食事形態
多くの介護施設では、利用者の噛む力や飲み込む機能を加味した形態別の介護食を作り、提供しています。利用者の咀嚼・嚥下状態と照らし合わせると食事形態は以下の5つがあげられます。
1.きざみ食
食べやすい大きさにきざんだものです。きざみの大きさは幅が広く、私が働いていた特別養護老人ホームでは、きざみ食を利用者の噛む力と照らし合わせて『荒きざみ』と『極きざみ』の2種類で対応していました。
『荒きざみ』は、ひと口大程度の大きさにきざんだものを指します。普通の食事が食べられる利用者でも噛む回数が少ない、噛む力が弱い、噛まずに飲み込んでしてしまうなど誤嚥事故の可能性がある場合、安全のためにひと口大にの荒きざみにして提供していました。荒きざみを食べている人の多くは噛む力が低下というより、急いで食べてしまう、駆け込んでしまうなど本人の食べ方に問題がある利用者に提供されることが多いです。
『極きざみ』は、荒きざみよりさらに細かくきざんだものです。利用者によってみじん切りでは口の中で食べものがまとまりにくい、喉につまる可能性が考えられ、あんかけ風に調理して提供するなど配慮していました。
2.軟菜食、ソフト食
歯茎でつぶせる硬さのものです。きざまなくても食べられるが、残歯が少ない、義歯を使用しない場合など噛む力や飲み込む力に不安な利用者へ提供されています。同じように歯茎でつぶせる硬さで、専用の凝固剤を使ってミキサーにかけたものを固めて作られたのがソフト食になります。ソフト食は口あたりがなめらかで食べやすく、誤嚥のリスクも低いです。
3.ミキサー食
口あたりがなめらかなポタージュ状のものです。舌さわりはなめらかで口あたりはよいが水分が多いとむせてしまいます。凝固剤を使ってむせない粘度を保つ必要があります。また普通食と同じ量を食べようとすると、量が多くなり食べきることができません。また食べられる量まで減らすと摂取カロリーが低くなってしまいます。栄養バランスと利用者が食べられる摂取量を考えると、栄養補助食品などと組み合わせて提供されることが多いです。
凝固剤は直接口の中に入れると、口の中の唾液が固まり、窒息の恐れがあるほど危険なものです。取り扱いには十分な注意しましょう。一方で水分の少ない食材はミキサーにかけにくいものがあります。無理やりミキサーにかけると機械故障の原因になるため、出汁などを使い、一緒にミキサーにかけるとスムーズに行うことができます。またミキサー食は水分を多く含んでおり、味が薄く感じ安い傾向があります。醤油などをかけるばかりでなく、やや濃いめの出汁を使う、マヨネーズの利用などでおいしく感じられる工夫をしましょう。
4.嚥下食
飲み込みやすい形態やトロミ具合などを調整したものです。嚥下食は日本摂食・嚥下リハビリテーション学会によって以下の5段階のレベルに分かれています。
- 0j:スライス上のゼリー
- 0t:ゼリー
- 1j:ゼリー・プリン・ムース
- 2:ミキサー食、ピューレ食、ペースト食(2-1:滑らかで均質、2-2:粒を含む不均質)
- 3:やわらか食、ソフト食
- 4:全粥、軟飯、軟菜食
嚥下訓練の場合、むせなどの問題がなく、食べることができると、徐々に食事の段階が上がったものが提供されるようになります。
5.流動食
おもゆ、具のない野菜スープなど形のない液状のものです。流動食は、噛まずに食べられる、消化しやすいもの、刺激がないのが特徴です。よく使われる流動食は、普通流動食と濃厚流動食があります。
普通流動食は、主に手術後や治療のために絶食をしていたなどすぐに固形物を食べることができない場合の食事になります。普通食やそれに近い食事まで段階をあげていくため、胃が食べ物を受けつけるようになるまでの初期の食事として提供されます。
濃厚流動食は、少量で高いエネルギーや栄養素などが摂取できるのが特徴です。胃ろうや経鼻経管栄養など口以外の方法で食事摂取をする場合に利用されています。
最近では薬局などでも販売されています。市販されている濃厚流動食は200mlで200~400kcalが摂れるものが多いです。病院や施設では食事を一度にたくさん食べることができない利用者へ食事と一緒に提供されています。また食事摂取にムラがある利用者へ手軽にとれる栄養補助食品として用いられることが多いです。
食事の姿勢がポイント
噛む力や飲み込む機能は食事を食べるために大切なことですが、誤嚥しないためには姿勢が重要です。嚥下機能に問題がない利用者であっても正しい姿勢で食べないと喉につまる恐れがあります。介助を行う際、気をつける座位姿勢、リクライニング車イスでの姿勢、ベッド上での姿勢のポイントは以下の通りになります。
座位で気をつけるポイント
- 食事が正面にセッティングできる位置へ座る
- 肘かけのついたイス、又は車イスに深く腰かける
- 背もたれがある場合は背もたれとの間に隙間を作らない
- 顎を引くことで前傾姿勢を保つ。必要に応じてクッションなどを利用する
- 足は膝を90度に曲げ、床に足の裏をつける
- 背が小さいなど、床に足の裏がつかない場合は踏み台などを利用し、座位の安定を図る
- 机は両肘を90度に曲げられる程度の高さがよい
リクライニング車イスで気をつけるポイント
- 車イスの角度は90度近くが一番よいが身体状況の合わせて45〜80度の間で様子を見る
- 膝はできる範囲で90度に近づける
- 座位が不安定な場合はクッションなどを利用し、座位の安定を図る
ベッド上で寝たままので気をつけるポイント
- リクライニング車イスと同じように45〜80度の間でギャッジアップを行う
- 膝を軽く曲げ滑り座位にならないように注意する
- 背中とベッドの間に隙間ができてしまう場合はクッションなどを挟み、隙間をなくす
- 首が前に倒れる、後ろへ仰け反る場合はクッションや枕などを挟み、安定を図る
- 強い嚥下障害がある場合は利用者の飲み込む力が残っている側の側臥位にて介助を行う場合がある
姿勢以外に気をつけたいポイント
食事は姿勢以外に摂取量が利用者の身体状況や環境によって左右される場合があります。食事が意欲的に食べられる雰囲気は以下のことがあげられます。
1.トイレなど排泄行為を事前に済ませる
排泄は生理的な欲求であり、食べ始める前に終わらせておくのが望ましいです。『トイレに行きたくでそわそわしてしまう』、『汚れているため不快感がある』では食事に集中することができません。トイレ介助、オムツ交換のどちらであっても食事前に済ませて精神的に落ち着けるよう心がけましょう
2.環境に配慮
体調不良などで居室から出られない場合は仕方がありませんが、食事は明るく開放的な食堂で食べることが望ましいです。他の利用者もいることで食事を食べる雰囲気を感じることができます。音楽を流す場合はクラッシックなど落ち着いたものを流すとよいでしょう。食事は落ち着いて食べられる雰囲気が大切です。利用者が好きだからという理由で民謡や演歌など軽快な音楽をかけると、音楽に気を取られ、食事に集中できないことがあります。落ち着いて食べることができる環境を整えましょう。
3.口腔体操を取り入れる
介助の必要な利用者の多くは嚥下機能が低下しているため、食事を食べる前に口腔体操やマッサージを行うことは有効です。唾液の分泌を促し、誤嚥性肺炎などの予防につながります。長い時間行うより毎食時に少しずつ行うほうが効果的といえます。
4.食事のメニューを伝える
介助が必要な人の多くは、ソフト食やミキサー食を食べており、見た目で献立がわからないことが多いので最初にメニューを紹介しましょう。声かけによって食欲を刺激し、『食事がおいしい』『食べたい』と思ってもらえるような工夫をすることが大切です。
食事介助を行う上でのポイント
食事前の環境整備、食べる姿勢を整えて、介助を行う際の注意点は以下のことがあげられます。
- いきなり介助は利用者にとって不安なため、メニューを説明しながら食事を食べ始めることを伝える
- 利用者の横または斜め前に座って介助する
- 水分で喉を潤してから食事に入る
- いきなり介助を始めると喉の動きも悪く、誤嚥につながる恐れがあるため注意
- 何が食べたいか本人に聞く、何を口へ入れるのか伝えながら介助を行う
- 意思伝達が困難な場合は偏ることなく介助を進める
- 飲み込みの状態に合わせて一口量に注意する
- 喉の動きや口の中を観察しながらゆっくり介助を行う
- 麻痺がある場合、基本は健側へ介助する
- 食事の後は水分摂取を促し、口腔内をきれいにする

著 許田美奈子 金城英昭 新城直美 花城嘉伸 日本ハンセン病学会雑誌
食後の口腔ケア
食事の後は食べ物のカスなどが残るため、口腔ケアがとても大切になります。口腔ケアを行うことで口の中のトラブルを防ぎ、おいしく食事を食べることにつながります。食事を食べる上で効果的なことや実際に気をつけたい口腔ケアの行い方は以下のようになります。
食事を食べる上でなぜ効果的なのか
1.唾液の分泌を促す
歯を磨くことによって口腔内に刺激を与えることにより、唾液の分泌を促す効果があります。唾液は口の中の粘膜を保護する、歯周病予防などの役割を担っています。唾液の分泌が少ないと口の中が乾燥してしまいます。唾液の分泌量を増やすことは食事摂取量のアップにつながります。
2.感染症など病気の予防
口の中に食べ物のカスが残っていると不衛生で口臭が強く、病気の元となる細菌などが繁殖します。口の中が汚れていると誤嚥性肺炎など感染症の原因になります。毎日歯を磨く、口をゆすいで食べ物のカスを取り除くだけで、口臭も抑えられ、歯周病など病気にもかかりにくくなり、感染予防につながります。
3.咀嚼・嚥下機能の低下を防ぐ
年齢とともに機能が衰えていく中、唾液の分泌は咀嚼・嚥下機能の低下を防ぐ役割を担っています。口腔ケアでは、歯を磨くで刺激を受け、唾液の分泌を助けます。口腔ケアを継続していくことで唾液の分泌を促し、食欲を増進させ、健康な身体を維持していく源になっています。
口腔ケアで気をつけること
口腔内を清潔に保つために念入りに行いたいところですが、利用者の不快感がないように手早く行うことが大切です。以下の点に注意して口腔ケアを行いましょう。
口腔ケアのポイント
- 義歯は外して別々に行う
- 自分で磨くことができる利用者はまずは自分で行ってもらい、磨き直しを行う
- 歯ブラシは歯茎に触れても痛くない程度の力加減で磨く
- 歯が残っている場合、1本ずつゆっくり磨いていく
- 特に歯と歯の隙間には食物残渣がついているため気をつける
- うがいができる利用者にはうがいを行ってもらう
- うがいのできない利用者は口腔ガーゼで口の中の汚れを拭き取る
- 痰の多い利用者はスポンジブラシを使い、痰が残らないようにきれいにする
- 歯ブラシ、スポンジブラシ、口腔ガーゼなど奥へ入れすぎると、反射的に嘔吐する恐れがあるため注意する

口腔ケアの姿勢
- 食事介助と同様に座位姿勢を保つことが理想
- やや前傾姿勢で行う
- 首が仰け反ると、唾液や水分が喉へ送り込まれてしまい、誤嚥する危険がある
- クッションなどを使い、首の仰け反りに注意する
安全に食事介助をすることが大切
食事介助を安全に行うためには、利用者の咀嚼・嚥下状態だけではなく、以下の6つのことに注意しましょう。
- 加齢によって身体機能が衰え、噛む力や飲み込む機能が異なるため、介護者は状況を把握し、状態に合わせた食事提供を行う
- 施設では利用者の嚥下状態に合わせた食事形態を考え、食事提供を行っている
- 食事を食べる姿勢や環境に配慮が必要
- 口の中をきれいに保つことでおいしく食事が食べられる、スムーズな食事介助につながる
- 食事後の口腔ケアは正しい姿勢で優しくていねいに行うことを心がける
- 口腔ケアの継続は感染症や誤嚥性肺炎の予防、嚥下状態の維持や向上に有効
食事介助は簡単なように見えて利用者の嚥下状態を正しく理解していないと命に関わるほど危険な行為につながる恐れがあります。利用者が安心して食事が食べられるように介護者側として身体機能に合わせた介助方法を身につけることが大切であり、リスクの軽減につながるでしょう。
働きやすい職場環境選びがあなたを輝かせる
あなたはなぜ介護の仕事を続けているのでしょうか?
日頃から考えることが多すぎていつの間にか忘れてしまっている介護の現場で働く理由。母が祖母の介護を大変そうにしているのを見て介護職を志した人や、障害者の方が当たり前の日常を送れない現実を知って、当時の自分では何も力になれないもどかしさから介護の仕事を志した人もいるでしょう。
現在、あなたが介護の仕事を行っているのは、「人の力になりたい!」と強く思ったからではないのでしょうか?
3K(きつい、汚い、危険)と言われていることを知った上で働き続けているあなたは高齢化社会である日本の誇りです。
介護業界の主役は現場で働くあなた自身です。
あなたをキッカケに、「介護の仕事って楽しいんだよ」「介護ってかっこいいんだよ」と思ってもらえる仲間が増えることを祈っています。
まずはあなた自身が輝ける場所に行きましょう。
世の中は、熱い想いを持って介護の仕事に取り組むあなたのような人材を求めています。