ベットから車椅子への移乗を全介助で行う場合は、事前に車椅子を移乗させやすい位置に配置したり、ベットの高さを調節しておくことが大切です。また、転倒、転落のリスクを減らすためにも、介助を始める際には要介助者へ声かけをし、要介助者の状態確認を行ってください。焦らずに移乗手順を一つずつ丁寧に行なうことで、要介助者の不安を減らし、リスクを最低限に抑えることができます。
目次
ベッドから車椅子への移乗手順(全介助の場合)
全介助が必要な方を、ベッドから車椅子へ移乗する手順を説明します。要介助者は、ベッド上で仰臥位、つまり仰向けになっており、その状態から車椅子に移ります。
1.声かけをして状態確認
介助は声かけからスタートします。「こんにちは」「体調はいかがですか」などと声をかけ、要介助者の体調を確認します。「〇〇へ行きますね」「これから車椅子へ移動します」など、これから行うことを伝え、相手の同意を得ます。その際に、相手の目や表情を見て状態確認をしつつ、安心感を与えるように努めます。
要介助者の不安を軽減
要介助者の不安を軽くし、安全な介助を行うために、声かけはとても大切です。たとえ親しい間柄だとしても、何も言わずに急に体を触られると、たいていの人は驚きます。また、他の人に体を預け、密着させる介助に不安を感じる人もいます。特に認知症のある要介助者の場合、介助者にとっては毎日のことであっても、要介助者にとっては毎回初めてされると感じる場合があります。相手の同意が得られることによって、介助をスムーズに行うことができます。お互いに、安心して介助を行うためにも、声かけは必ず行いましょう。
2.ベッドや車椅子の準備

ベッドや車椅子を準備し、安全な環境を整えます。座位を取った際に、要介助者の足の裏が地面に着くくらいの高さにベッドを調節します。つまずいたり、踏みつけてしまうことを避けるために、車椅子のフットレストは必ず上げましょう。そして、ベッドに対して、30~45°の角度に車椅子を配置します。車椅子の配置ができたら、ハンドブレーキを忘れずにしっかりかけます。
3.要介助者の手を胸の上でたたむ

介助しやすいように、腕組みをするようなイメージで、要介助者の手を胸の上でたたみます。また、足を立たせて、要介助者の体を出来るだけ小さくコンパクトに丸めます。
重心を分散させない姿勢が重要
重心を分散させない姿勢は重要です。手を広げた状態で介助を行うと、双方の体勢が不安定になります。手がベッド柵にぶつかったり、腕が体の下に巻き込まれるといった、怪我につながりかねないことが起こる可能性があります。また、重心を分散させない体勢をとることによって、小さい力で介助を行うこともできるので、背の高い、もしくは体格の大きな方への介助も、より軽い負担で行うことができます。
4.仰臥位(ぎょうがい)から側臥位に体勢を変える

上半身を起こしやすくするために、要介助者の体の向きを、仰臥位から手前向きの側臥位、つまり体を横向きにする状態に変えます。その際、ベッドになるべく近づくなら、介助者の腰への負担を軽減し、安定した介助を行うことができます。要介助者がベッドの奥側にいるなら、ベッドの端に水平移動してから、介助を行います。
5.足をベッドから降ろす
ベッド上での端座位を取りやすくするため、最初に足だけを前もってベッドから降ろします。その際、要介助者の膝が少しベッドから出た状態になります。
膝を少し曲げておくと無理なく降ろせる
要介助者の膝を前もって少し曲げておくなら、足を無理なく降ろすことができます。また、足を降ろした時に、ベッド上で端座位を楽に取ることができます。膝がまっすぐな状態だと、要介助者が無理な体勢になり、事故や怪我につながりかねません。
ベッドから降ろすのは膝まで
座位を取った時に要介助者の体がふらつかないために、足を降ろすのは膝までにします。要介助者の膝の裏に手を回し、ゆっくり手前に引いて、膝から下をベッドに降ろします。
6.首と腰に手を回し、上半身を起き上がらせる
上半身を起き上がらせるために、要介助者の体に自分の体を密着させ、相手の首と腰に手を回します。上半身は斜め前の上方へ、そして下半身は手前の下方へと動かすイメージで介助を行います。
下になっている肩を支えるように手を回す
要介助者の体に手を回す際は、まず片方の腕を要介助者の首の下に差し込み、肩甲骨の内側あたりを手の平で支えます。この時、腕の内側全体で要介助者の側頭部を支える形になります。そして、もう一方の手は要介助者の腰の辺りを、やはり手の平全体を使って支えます。
円を描くように力を使う
起き上がらせる際には、円を描くようなイメージで介助を行います。直線的で持ち上げるような動きよりも、円を描くような動きを取るなら、より小さな力で要介助者を起き上がらせることができます。要介助者の体重と遠心力を利用し、やわらかく円を描くような動きで介助を行いましょう。
お尻を支点としたテコのイメージ
上半身と両足を一緒に動かす際は、お尻を支点としたテコのイメージで介助します。要介助者の体重と、頭の重さを利用した遠心力を使って、お尻を中心、つまり支点として、円を描くように起こすなら、ただ持ち上げるよりもずっと小さな力で介助を行うことができます。こうしたテコの原理を利用するなら、介助者の肩や腰への負担が軽減されるだけでなく、要介助者への体にかかる負担も軽くなります。
7.自分の足を片方車椅子の方へ向ける

ベッド上に端座位を取らせ、安全を確認した後に、要介助者を立たせてから車椅子に移乗させます。介助者はあらかじめ、車椅子側の自分の足のつま先を、車椅子の方へと向けておきます。そうすることによって、腰をひねらずに済むので、介助者の腰痛予防にもなります。
8.要介護者に首へ両手を回してもらう

立ち上がらせるために、要介助者の両手を、介助者の首、もしくは背中へ回してもらい、介助者の上半身を抱え込むような体勢を取ります。体を密着させることにより、互いの重心が近づき、安定感が増すため、要介助者を立ち上がらせやすくなります。
手を回しやすいように腰を落とす
要介助者が両手を回しやすいように、介助者は足を広げて腰を落とします。足を広げて重心を低くするなら安定感が増し、立ち上がらせた際の介助者への腰への負担が軽減されます。
9.要介助者の腰のあたりを持って引き上げる

要介助者の腰の部分を手の平全体を使って持ち、自分の側に引き寄せるようにして立ち上がらせます。この時、介助者は自分の手を組んで要介助者の体を支えることもできます。要介助者の臀部がベッドから上がった時に、介助者の腰を低くして重心を落とし、バランスを崩さないように注意しながら引き上げ、しっかりと立ち上がらせます。
要介助者が介助者によりかかるような形に
全介助が必要な要介助者は自立が難しいので、要介助者の体を引き出すようにして、介助者に自然に寄りかかる形にします。要介助者が寄りかかってきても、介助者がしっかり足を広げていれば、全体の体重を支える面が多くなり、介助者への体にかかる負担が少なく済みます。
できるだけ体を近付ける
要介助者と体をできるだけ近づけます。そうするなら、互いの重心が分散されないので、安定して立ち上がらせることができます。安全な介助を行い、介助者への負担を軽減させるためにも、できるだけ体を密着させ、互いの重心を近づけることが大切です。
10.車椅子の方向へ回転し、座らせる

要介助者の体を密着させたまま、車椅子の方向に体の向きを回転させます。立ち上がらせてすぐにではなく、一旦姿勢が安定していることを確認してから体を回転させましょう。要介助者の臀部、もしくは太ももの裏側が車椅子の座面に軽く触れるような位置まで回転したことを確認し、ゆっくりと座らせます。この際に、「車椅子に座りますよ」と声かけも行います。
11.体勢を整える

ずり落ちを防ぐため、車椅子に座った後の体勢を整えます。座りが浅ければ、要介助者に腕を組んでもらい、後ろから腕と体との間に手を入れて、静かに引き寄せます。要介助者の足は、車椅子のフットレストに乗せます。
介助の負担を少なくするポイント
介助の負担をできるだけ軽くするポイントを紹介します。車椅子への移乗は、一日に何度も行う介助です。体への負担を少なくする方法を覚えましょう。
要介助者に協力してもらう
要介助者に協力してもらうことは大切です。協力が得られるなら、介助者の力ですべて行うよりも、一つ一つの動作を格段に楽に行うことができます。自分の力だけではなく、要介助者の残存能力を活かしつつ、力を合わせて移乗介助を行いましょう。
動作の前に声かけを行う
動作の前には必ず声をかけましょう。「今からこのような動きをします」と前もって説明したり、「123でいきますね」などと、動きのタイミングを知らせるなら、要介助者も協力しやすく、安心して介助者に自分の体を預けることができます。相手の不安を取り除くためにも、声かけを行うことはとても大切です。
腰が反らないように支える
要介助者を支える際には、介助者の腰が反らないように注意します。腰が反った姿勢に力が加わると、腰痛になりやすくなります。特に要介助者を立ち上がらせる時には腰が反りやすくなるので、お互いの体を密着させることや、重心を低くとることなどを頭に置きつつ、要介助者の体をしっかり支えるようにします。
足を広げて支える面を増やす
立ち上がりの動作に入る前に、介助者はしっかり足を広げて、体重を支える面積を増やします。そうするなら、左右、前後、どの方向に対しても安定感が増し、介助者にかかる負荷も少なくなります。
腰を捻らない
可能な限り、腰をひねらないようにしましょう。腰をひねる動作は腰痛の原因になります。特に、要介助者を回転させて車椅子に座らせる際には、自分の足の位置や方向を工夫し、肩と腰が平行を保つ状態を意識するなら、腰を不必要にひねらないで介助ができます。
予め片足を車椅子の方へ向けておく
介助者はあらかじめ、車椅子側の自分の足のつま先を、車椅子の方へと向けておきます。そうすることによって、大きく腰をひねらなくてもよくなり、動作も安定します。
安全で負担の少ないベットから車椅子への全介助移乗を行う
ベッドから車椅子への移乗は、一日複数回にわたる、頻度の高い介助の一つです。特に全介助を必要とする要介助者の場合、介助者にかかる負担が非常に大きくなりがちです。そのため、安全で負担の少ない介助方法を身に着けることはとても大切です。手順を事前にしっかり確認することは重要ですが、声かけにもぜひ気を配りましょう。声かけ一つで、要介助者の安心感は大きく変わります。要介助者が安心して体を預け、動作に協力するなら、安全かつ楽しく介助を行うこともできます。大切な要介助者や、介助者自身の体を守るためにも、負担が少なく、安全な介助方法をマスターしましょう。