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高齢者が脳トレをおこなうと認知症の予防になると考えられています。普段の生活では使わない脳の領域を脳トレで刺激することで、脳の活性化を図ります。ひらめき力や計画性、判断力が問われるようなレクリエーションは、脳のトレーニングに最適です。高齢者になじみのある漢字の問題や、初めてでも理解しやすいルールをベースに脳トレレクリエーションをおこなうのが良いでしょう。楽しく取り組める工夫が必要です。

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高齢者向けの脳トレ5選

 高齢者向けにレクリエーションで脳トレをおこなうなら、利用者が楽しんで取組めるような脳トレがおすすめです。 利用者同士交流しながらおこなう脳トレは、達成感を味わえたり、集中力をやしなえりと、身体を使った体操とはちがう効果を得ることができます。
身体状況や年齢など参加者にあわせておこなえるよう、5つの脳トレメニューを紹介します。

1.計算

 計算能力は脳の機能を推し量るうえで重要な指標です。 認知症の診断で用いられる長谷川式テストでは、引き算が取り入れられています。
脳トレにおける計算は、小学校低学年レベルの簡単な計算問題を多く解くことがポイントです。
なぜなら、あまりに難しい問題は、参加者が考えすぎてしまい、脳にとって過度のストレスを与えます。その結果、参加者が取り組むことに抵抗を感じてしまうのです。
高齢者にとって重要なのは、毎日コツコツと簡単な課題を続けることで、脳の活性をたもち、老化を緩やかにすることです。

計算タイムアタック

計算タイムアタックとは、簡単な計算を複数用意し、誰が一番早く解けるかを競うトレーニングです。ただ計算するのではなく、対戦形式、制限時間方式にすることでゲーム性が増します。
100マス計算なら一枚の紙で多くの問題を解くことができます。

▲計算タイムアタック
▲計算タイムアタック
実施するときのポイント高齢者にとって表が細かく、見えにくい場合は、大きな用紙を使うか、見やすい大きさを優先しますので、かならずしも100マスまで広げる必要はありません。解答がおわったあと、見にくい文字でも、答えがあってなくてもかまいませんが、「高齢者が考えて書くことができる」ようにサポートしましょう。

2.しりとり

しりとりは、小さいこどもから高齢者まで、誰もがやったことがあるゲームの一つです。
 誰でも知っているゲームを脳トレにすることで、複雑なルールを理解するという過程を省略することができます。 単純なでやり方でも構いませんが、しりとりに一つルールをつけたり、歩きながらおこなったりして、少しだけ複雑にすることで、楽しくおこなえます。

すきましりとり

最初と最後の単語か文字を決めておき、その隙間を埋めるようにしりとりを完成させるしりとりです。例えば「リンゴ」で始まり「ニンジン」で終わるなら、リンゴ、ゴリラ、ラクダ、ダンプカー、カカオ、鬼、ニンジンとつながるようにしりとりをします。

(問題)へちま → (  ?  ) →  ラジオ  →(  ?  )  →  まつり

実施するときのポイントこのしりとりの特徴は、「ひとりでできる」というところです。
用紙にあらかじめ始まりと終わりの言葉を記入しておき、5語以上でたどり着きましょう、といった簡単なルールで挑戦してもらうと、取組みやすくなります。

○○しりとり

動物しりとり、食べ物しりとり、4文字しりとりなど、条件を設けてしりとりに制限を付けます。
普通のしりとりに条件が付くことで、難易度が上がります。

▲○○しりとり
▲○○しりとり
実施するときのポイントグループ内で順番にしりとりをしていきます。制限がかかることで、参加者が考える時間によって間が空いたり、まちがえたりすることが増えます。スタッフとしてかかわる際には、利用者の自尊心に配慮しながら、和やかな雰囲気でおこなうことが重要です。

3.連想ゲーム

連想ゲームは、いくつかの単語や事柄から連想し、お題を当てるゲームです。
全員で考えてもいいですし、早い者勝ちの個人戦、複数の問題を用意して正解の数を競うことも出来ます。

都道府県当て

都道府県当ては、名前を伏せたある県で有名なもの、名産品や建物、著名な歴史人物をヒントに、都道府県名を当てるゲームです。ヒントの数や知識のレベルに合わせると、難易度の調整ができるゲームです。

▲都道府県当て
▲都道府県当て
実施するときのポイント正解が出たあとで、都道府県にまつわる名産品やエピソードを参加者で話すと、話題が広がります。スタッフは「そこに行ったことありますか?」「どんな思い出がありますか?」などと話題を振り、参加者同士が交流できるような時間をつくると、盛り上がります。

私は誰でしょう

誰でも知っている人や物をお題にして、ヒントから答えを連想するゲームです。
例えば「織田信長」なら「戦国大名」「茶の湯」「比叡山」「本能寺」「尾張」などをヒントにします。ある程度の基礎知識が必要になるゲームなので、参加者に合わせてお題やヒントを工夫しましょう。

▲私は誰でしょう
▲私は誰でしょう
実施するときのポイント人物が難しい場合、野菜や動物をお題に設定して、難易度を下げることができます。
たとえば「私は黄色の皮に包まれていて、中の身は消化がよい。東南アジアにたくさん仲間がいるよ」→「バナナ」といった内容です。特に道具も必要ないので、空間があれば座ったままでできます。

4.アナグラム

アナグラムは、文字を入れ替えて、意味のある単語や文章、または別の単語や文章にするゲームです。
レクリエーションでアナグラムをおこなう場合、ホワイトボードを準備したり、あらかじめ平仮名カードを作っておくなどして、目で見て考えやすい環境にしておくとよいでしょう。

次の文字を並べ替えると、野菜になります。なんでしょう?

Q1.
けたいし → 『  ?  』  (A:しいたけ)Q2.
わかれいんこだい → 『  ?  』 (A:かいわれだいこん)
実施するときのポイント目で見て考えるクイズですので、見えること、見やすいことが前提になります。
正解を発表した後、参加者が見直して並べ直す時間が必要です。また、野菜に限らず、芸能人の名前などでやってみるのも面白いですし、並べ替えたことで、別の言葉になっていると、さらに楽しむことができます。

5.塗り絵

大人数で取り組むレクリエーションよりも、手作業を自分でコツコツとおこなうほうが好き、という人には、塗り絵をおすすめします。人間の脳は、一つのことに集中すると、リラックス状態になり、落ち着いて過ごすことができます。出来上がった作品は、利用者同士で見せあって、コミュニケーションをとることで、交流するための道具として用いることもできます。

▲塗り絵
▲塗り絵
実施するときのポイント細かい風景などの塗り絵が好きな人や、着物柄や花の色をこだわって塗りたい人がありますので、スタッフは自分で好きな色、道具を選べるように準備しておきましょう。塗る道具は色鉛筆やクレヨン、水彩絵の具など取りそろえておくと、さらにバリエーションが豊富になります。

脳トレレクリエーションの効果

 脳トレレクリエーションの目的は、難しい問題をトレーニングとして取り組みながら、レクリエーションとして楽しむことです。 レクリエーションは、失敗しても評価を受けることがありませんので、取り組みやすい点が特徴です。
スタッフとしてかかわる際には、高齢者が自らの意思で参加し、おしゃべりなどしながら、楽しい雰囲気で実施できているかを観察しましょう。

認知症予防が期待できる

高齢者が脳トレをおこなうと、認知症の予防に効果があると考えられています。そもそも人間の脳は、生活が長年マンネリ化したり、人との交流が少なくなると、ごく一部しか機能せず、不活発な状態に陥ってしまします。
本来、高齢者は老化と共に、身体機能や精神機能が低下しますが、一方で低下しない知能もあります。

知能区分人間の知能内容老化での衰え
流動性知能記銘力新しいことを覚える能力
短期記憶能力最近の出来事を覚える能力
想起力覚えたことを思い出す能力
集中力知的作業や単純作業をおこなう力
結晶性知能語彙力言葉を使い、理解する力
判断能力経験や知識を活かして考える力

参考健康長寿ネット,2020,高齢者の心理的特徴|公益財団法人長寿科学振興財団)

人間の脳が持っている知能は、流動性知能と結晶性知能に分けられます。
流動性知能の特徴は、最近の物事について記憶したり、行動したりするときに重要となります。新しいことを覚えたり、思い出したりすることで、柔軟に対応できるのは、流動性知能が正確に働いていると言えます。高齢者の中に、新しい機械の使い方を覚えるのが苦手な人がいるのは、流動性知能が低下したことが原因です。
もう一つの知能は、結晶性知能といいます。
これは人生経験の中で身につけた能力のことで、老化による低下はあまり見られません。言葉を使ってコミュニケーションを取る語彙力や知識を生かして課題に対応する判断能力は、知識の土台部分に結晶として根付いていますので、老化による影響は受けません。

 「脳をトレーニングする」ということは、流動性知能に焦点を当てて、思い出す訓練をすることをいいます。 一定の時間、課題に集中し、脳に刺激を与えることは、脳全体を活性化して、認知症予防や記憶力低下の防止に、よい効果を与えます。

「できた」が自信になる

一般的に人間は、成功体験を積み重ねると、自信や自己肯定感を獲得し、さらに自分を向上させようとポジティブな思考になります。
 高齢者にとっても、難しすぎる課題ではなく、簡単なクイズを正解することにより、「できた」と感じる成功体験の積み重ねが、自己肯定感を得ることになります。 スタッフとして脳トレにかかわる場合、もしかすると課題や参加者のレベルによっては、解答できない人があるかもしれません。そんな時は、一つ一つの課題をクリアしていくことも大事ですが、分からなくてもヒントをたよりに正解することで、解答できたという達成感を味わうことが大事になります。
高齢者にとって、参加者同士で教えあうという行為は、自分の役割を生み出したり、自信を回復したりすることにつながります。ですから、スタッフと解答者だけが発言するのではなく、多くの参加者の発言を促しながら、にぎやかな雰囲気で実施することを大切にしましょう。

脳トレレクリエーションの注意点

対象者区分利 点注意点
高齢者全般積極的に取り組む姿勢で、雑談も交えてにぎやかな雰囲気がつくりやすい。視聴覚機能が低下している人があるので、「見えますか」「聞こえますか」といった確認が事前に必要です。
認知症高齢グループコミュニケーション能力は保たれている人が多い。問題の内容や答えが理解できなくても、和やかな雰囲気が認知症高齢者にとって安心感を与えます。参加意欲、意識を向けてもらうために、一人ひとりに話しかけるようにおこないます。個別にサポートできる様に、複数のスタッフでおこなうと、場についていけない人、途中で退席する人に対応できます。
男性が多い場合参加することを拒む人がありますので、最小限の声掛けで参加を促しましょう。専門知識が必要な問題や地域の歴史に関する問題は、女性より男性が好む内容です。解説の場面で男性に意見を求め、その内容を全体で共有するなど、役割をお願いすると男性の参加意欲が高まります。強引な勧誘は、本人の意思や自尊心を傷つけますので、気をつけましょう。
女性が多い場合参加者同士のコミュニケーションが活発におこなわれます。気の合う人同士でなく、その場で初めてあった人でも感想を話しあう場面が多々みられます。
冗談を言いながら和やかな雰囲気で実施できるよう、出題するスタッフも積極的にかかわりましょう。
参加者の数が多いと、意見がまとまらず時間を浪費してしまいますので、10人以内の実施がのぞましいでしょう。
年齢層が幅広い昔の知識を問う内容や最近の話題を織り交ぜて出題しましょう。解答の内容を参加者にインタビューしながら、年代層のエピソードをグループ内で共有すると、参加者に一体感が生まれます。テレビ、芸能、スポーツなどのジャンルは、今と昔の比較がしやすいのですすめです。
地域性が
共通している場合
地域や施設での交流イベントでおこなうと、さまざまな年齢層の参加で盛り上がります。
地域の歴史を知ったり、若い世代を高齢世代がしったりすると、刺激になるので、参加者同士の交流の場になります。
参加者同士は、日頃から地域生活でつながっていますので、個人情報を扱うような内容は控えましょう。

どのような人たちと、どんなレクリエーションをするかによって、注意点は異なります。
 年齢や身体状況の違い、人数や地域性など実施する上では影響しますので、スタッフは客観的に全体の様子を観察しながら、適宜サポートをする必要があります。 

楽しく取り組めるようにする

参加者が「取り組んでよかった」と、楽しさを感じることが重要であり、またそれが脳トレレクリエーションの目的でもあります。
高齢者が参加したことで不快に感じるような場面は避けましょう。
とくに対戦形式のレクリエーションは、勝ち負けへのこだわりが強まると、個人が中傷されたり、全体が殺伐とした雰囲気になったりしかねません。
その場合スタッフは、全体の雰囲気を見守りながら、参加者個人の様子も観察して、楽しく実施できているかを、確認しながら進行することが大切です。

全員が参加できるようにする

スタッフは、参加者が「楽しかった」と思えるようにするには、それぞれの個性を把握し、働きかけを工夫しながら、全体で和やかな雰囲気を演出することが重要です。
参加者の中には積極的な人、消極的な人がいます。スタッフは、特定の人だけが発言していたり、一部のグループばかり対応してしまっていないか、確認しながら進行しましょう。
また、スタッフは、参加者同士がレクリエーションのあとで、交流できるような時間をつくっておくと、新しい関係ができるきっかけになりますので、工夫してみましょう。

高齢者の認知症予防になる脳トレをレクに取り入れよう

 高齢者を対象に脳トレをおこなう場合は、レクリエーションとして楽しみながらおこないましょう。 脳トレの内容は、難しすぎず、気軽に取り組めて、達成感を得やすい内容が、継続したトレーニングをおこなう上で重要です。
高齢者には、集団で取り組むレクリエーションが好きな人、チームで競い合うことが好きな人、ひとりで作業をおこなうことが好きな人、いろいろあります。
スタッフは、高齢者の性格や嗜好(しこう)を把握ながら、レクリエーションのメニューを選ぶことが、失敗をしないコツとなります。
そのためには、スタッフ同士で、今回のレクリエーションが参加者にとってどうだったか、次におこなう際に修正する内容があったかなど、振り返ることが重要です。
そうすることによって、スタッフのレベルアップ、参加者の満足度が上がり、脳トレレクリエーションが、参加者の認知症予防に役立つことになります。

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