高齢者の運転免許更新には、運転の基礎知識などを学ぶ高齢者講習の受講が義務付けられていますが、自分の身体にどのような衰えがあるのかも自覚しておくことが大切です。運転に支障が出る症状として、視力低下や関節痛、また認知症に繋がる認知機能の低下などがあります。老化のスピードは個々の環境に左右されるので、今後迎えるライフステージの変化についても心構えをしておく必要があります。
目次
高齢者の運転免許更新までの流れ
運転免許更新手続きでは、70歳以上の高齢者になると運転免許更新前に受講しなければならない高齢者講習があります。
70歳から74歳では高齢者講習のみ義務付けられているの対し、75歳以上では高齢者講習と併せ認知機能検査を受ける必要があり、年齢によって高齢者講習内容は違います。
70歳から74歳までは高齢者講習のみ

70歳から74歳までの高齢者は指定の高齢者講習(2時間5,100円)を受講してから免許更新を行います。
70歳から74歳までの免許更新時の高齢者講習内容は合理化講習となり次のようになります。
- DVD等で、交通ルールや安全運転に関する知識を再確認する。
- 指導員より運転に関する質問などを受けなが ら講義を受講する
- 器材を使って、動体視力、夜間視力及び視野を測定する
- 場内コースを運転して指導員に必要な助言を受ける
75歳以上の高齢者は講習の前に検査がある
75歳以上の運転免許の更新では高齢者講習と併せ、 認知機能検査を受検します。 認知機能検査の結果により、その後の受講区分や講習の時間と金額は変わります。
1)認知機能検査の結果が第3分類の場合
- DVD等で、交通ルールや安全運転に関する知識を再確認する
- 指導員より運転に関する質問などを受けながら講義を受講する
- 器材を使って、動体視力、夜間視力及び視野を測定する
- 場内コースを運転して指導員が必要な助言をします
2)認知機能検査の結果が第2分類または第1分類の場合
- DVD等で、交通ルールや安全運転に関する知識を再確認する
- 指導員より質問を受けなが ら、講義を受講する
- 器材を使って、動体視力、夜間視力及び視野を測定する
- ドライブレコーダー等で運転状況を記録しながら、指導員から助言を受ける
- ドライブレコーダー等に記録した映像等を使い、運転に関する個人指導やDVD等で安全運転を学ぶ
各種の検査・講習の金額と時間は
- 認知機能検査は約30分で750円
- 合理化講習(第3分類)は2時間で5100円
- 高度化講習 3時間で7950円
尚、認知機能検査の結果が第2分類の場合では高度化講習のみとなり、第1分類の場合では臨時適性検査又は医師の診断書で認知症でないと判断されれば高度化講習を受講出来ます。
「70歳から74歳までの更新手続き」と「75歳以上の方の更新手続き」は次のようになります。
70歳から74歳の方の更新手続の流れ | 75歳以上の方の更新手続の流れ | ||
有効期間満了から6ヵ月前 | 講習通知受領 | 有効期間満了から6ヵ月前 | 認知機能検査通知書受領 |
講習予約 | 認知機能検査予約 | ||
高齢者講習受講 | 認知機能検査受験 | ||
誕生日の1ヵ月前から | 更新手続期間開始 | 講習通知受領 | |
お誕生日 | 講習予約 | ||
誕生日から1ヵ月後以内 | 有効期間満了 | 高齢者講習受講 | |
誕生日の1ヵ月前から | 更新手続期間開始 | ||
お誕生日 | |||
誕生日から1ヵ月後以内 | 有効期間満了 |
運転免許証の更新手続きは誕生日の約40日前に更新のお知らせのはがきが郵送されるので誕生日の前後1ヵ月の間に手続きをします。
高齢者の運転を妨げる老化による身体の変化
老化とは全身的な衰退で、個人の生活習慣によって個人差があり、運転に支障が出る老化症状を知っておくことで、現在自覚症状がなくても普段の運転生活で気を付けることが出できます。
視野障害や身体機能低下、筋肉の衰えなどにより、運転時の操作ミスが起こりやすく、特にハンドルやブレーキなど不適切な操作による75歳以上の高齢者ドライバーが起こす事故は、一般ドライバーの約2倍となっています。
視覚や視力の低下で目からの情報量が乏しくなる
高齢者の身体と疾病の特徴として3つの老年症候群に分かれ視力低下は前期高齢者(65歳から74歳)から増加します。

個人差はありますが、視力低下は45歳~50歳頃から加齢に伴い低下していきます。
60歳代で視力は0.5程度であったのに対し、80歳代になると0.3程度まで視力は低下します。80歳代で視力が1.0以上の高齢者は10%程度で、高齢者は視力の低下と併せ、白内障や緑内障などにより視野が狭くなります。
明暗に対する順応も加齢に伴い時間がかかるようになってきます。40歳代から徐々に始まり、50歳以降で顕著になる傾向があり、特に薄暗い場所で物を見ることが困難になる傾向にあります。
参考「老年期の感覚機能の低下|視覚」
参考「加齢に伴う体の変化 – 24. 高齢者の健康上の問題 – MSDマニュアル家庭版|眼」
運転中は意識して上の方にも視線を向ける
高齢者の運転に対するポイントは視覚や視力の変化により視野が狭くなっているため、信号を見落とさないよう意識して上方に視線を向けることが大切です。
また、薄暗い場所で対象物を確認しにくくなっているので夕方から夜の運転に注意したり、明暗の影響を受けにくくするためにサングラスを着用したりすることが好ましい場合があります。
関節の痛みで運転中の動作がスムーズにいかない
関節軟骨の変性や変形は、人によっては20歳代から始まり、60歳代以上になると、膝関節節、股関節、肘関や手指の関節の80%で認められるといわれています。膝や股関節に痛みがあると運転中の動作もスムーズにいかなく、特に運転席で後方を見るために体をねじる動作に負担を感じることや狭い場所での駐車でハンドルを何回も切る動作が辛くなる場合があります。
参考「運動機能の老化 | 健康長寿ネット」外出時は駐車スペースが広いところを選ぶ
切り替えしやバックなど、後ろを振り返る動作は関節に痛みが生じやすいです。何回も後方確認やハンドル操作が必要になるような、狭い駐車スペースしかない商業施設やパーキングは避けるようにしましょう。
駐車に不安や負担を感じている場合には車両後方の映像を確認できるバックモニターを利用する事が効果的です。もし車両にバックモニターがついていない車両でも、後付けでバックモニターを取り付けることが可能です。
脳神経の働きの低下で反射神経が鈍る

脳神経系の働きの低下により、反射神経が鈍ることで前方の対象物を避けるためにハンドルを切る、アクセルを踏むなど、とっさの行動が出来なくなります。
また、運動機能が老化する原因には身長の変化や円背による姿勢の変化などの形態学的変化の他、運動学的変化から俊敏性が低下する場合があります。
特に、年齢とともに動体視力が低下することで反射神経が鈍ってきます。高齢者は運転しながら周囲の変化する景色についていけず、情報を正しく処理することができないために、危険を回避する動作が遅れてしまうという危険性があります。
若い頃よりも運転スピードには気を付ける
高齢者は 反射神経が低下している為、とっさの行動が取れるよう運転スピードには十分、気を付けることが大切です。 運転スピードが早くなると停止距離が伸び、衝突の回避が困難になる事や運転時の視野がさらに縮小化するため、自分の反射神経は若い頃よりも衰えていることを自覚し制限速度を意識しましょう。
ストレスの心身への影響が大きい
高齢者はストレスに対する心身反応が大きくなりやすい傾向があります。
男性より女性のほうがストレスにより心身の影響が出やすく、肩こりや目の疲れ、苛立ちや焦りなどを感じやすく、ストレスの原因は次のようになります。
- 眠りが浅くなる
- 判断力が落ちる
- 物事が面倒になった
- 頭の回転が鈍くなった

車での遠出や交通量や人通りの多い場所での運転は控える
長時間運転や交通量や人通りの多い場所での運転は、疲れや精神的ストレスにより事故を起こしやすくしてしまいます。
交通事故の発生にはさまざまな要因が関わっているため、疲れて判断力が落ちたり、心に余裕のない運転を避けるためにも、車での遠出や慣れない土地での運転、また人通りが多く狭い道などでの運転を控えるようにしましょう。
老化のスピードには個人差がある
老化は、たばこや運動の有無などの生活習慣、友人の死や定年退職、子供の自立などの心理的ストレスや環境の変化など、さまざまな要因が関係しているので、老化のスピードは個人差があります。

また、定年退職や子供の自立など、現在環境に大きな変化はなくてもいずれ経験することで、少なからず自分の身に影響を及ぼすことがあります。
身体的要因の他、心理的要因や社会・環境要因による相互の作用と併せ高齢者の疾患の特徴も多く、今まで以上に慣れでやっていた車の運転も、一つ一つの動作を意識して注意していくことで、事故から身を防ぐことができます。
運転免許の自主返納という選択
自主返納とは、免許がある人が免許の全部または一部の取消しを申請することができる制度のことです。
運転免許の自主返納の手続きに必要な書類と申請方法は次のようになります。
- 運転免許取消
- 一部取消申請書
- 返納する人の運転免許証
また免許返納後運転経歴証明書とは、免許の申請取消し後、過去5年間の運転経歴を証明するもので、運転経歴証明書の手続きに必要な書類と申請方法は次のようになります。
- 運転経歴証明書交付申請書
- 返納する人の運転免許証
- 住所、氏名、生年月日を確認できる書類
- 申請する人の写真と手数料

運転への不安は60代で出てくる人もいれば80代に入っても不安なく運転する人もいます。何歳まで運転できるかは個人の判断にゆだねられているので、現在、 運転に不安はなくても来るべき衰えに備えて前もって運転免許を返納するのも、万が一の事故を避ける対策 の一つです。
高齢者の運転を支援してくれるサポカー
サポカーとは「セーフティ・サポートカー」の略で衝突被害軽減ブレーキや踏み間違い時での急発進抑制をサポートする先進安全技術でドライバーの安全運転を支援してくれる車です。
加齢に伴う身体の変化を自覚しつつも安全な運転をこの先も続けていくのであれば、 先進安全技術を備えた車に乗り換えることも、事故対策となります。 また、サポカーには衝突被害軽減ブレーキを搭載した、全ての運転者に推奨するサポカーと衝突被害軽減ブレーキに加え、ペダル踏み間違い急発進抑制装置等を搭載した、特に高齢運転者に推奨するサポカーSとサポカーに分けられ、高齢ドライバーに対する補助金制度があります。
サポカーSとサポカーでは搭載されている先進安全技術が違う
サポカーには代表的な4種類の先進安全技術があります。
サポカーの代表的な4種類の先進技術 | |
衝突被害軽減ブレーキ | 車載レーダーやカメラで車両や歩行者を検知し、警報で衝突の可能性を回避します。 さらに衝突の可能性が高い場合には、自動でブレーキを作動します。 |
ペダル踏み間違い急発進抑制システム | 停止時や低速走行時、車載レーダー、カメラ、ソナーが壁や車両を検知し、アクセルを踏み込んだ場合の急加速を防止します。 |
車線逸脱警報装置 | 車載カメラにより道路上の車線を検知し、車線からはみ出しそうになった場合やはみ出した場合、警報音がなります。 |
先進ライト | ハイビームとロービームを自動的に切り替わり、視界を見やすくします。 ハイビームの照射範囲を車両エリアのみ部分的に抑えたり、ハンドルや方向指示器などの運転者操作に応じ、方向転換先の視界を見やすくなります。 |
サポカーSとサポカーに搭載されている先進安全技術の違い | |
![]() | 自動ブレーキを搭載した、すべての運転者に推奨する自動車です。 |
![]() | 自動ブレーキに加え、ペダル踏み間違い時加速抑制装置等を搭載した、特に高齢運転者に推奨する自動車です。サポカーSはその種類によって以下の表の3つのカテゴリーに分けられます |
サポカーS 衝突被害軽減ブレーキ機能の3つの区分 | ||
ワイド 衝突被害軽減ブレーキ(対歩行者)、ペダル踏み間違い急発進抑制装置、車線逸脱警報、先進ライト | ベーシック+ 衝突被害軽減ブレーキ(対車両)、ペダル踏み間違い急発進抑制装置 | ベーシック 低速衝突被害軽減ブレーキ(対車両)、ペダル踏み間違い急発進抑制装置 |
65歳以上のドライバーには補助金制度も
高齢ドライバーによる交通事故へ注意喚起としてサポカー補助金について65歳以上のドライバーを対象に、2020年3月9日からサポカー補助金について申請受付が開始されました。
対象者 | 新しく車を購入する65歳以上のドライバー |
対象車両 | a)対歩行者の衝突被害軽減ブレーキ b)ペダル踏み間違い急発進抑制装置 |
新車 | 中古車 | ||
乗用車 | 軽自動車 | ||
aとbの両方を搭載する車両 | 10万円 | 7万円 | 4万円 |
aのみを搭載する車両 | 6万円 | 3万円 | 2万円 |
交通事故を他人事とせず自分を過信しすぎないことが大切

運転技術に対し年齢が高くなるほど運転に自信を持っている傾向があります。
生活圏内しか運転しないから大丈夫、安全装備のある車だから大丈夫、今まで事故は起こしたことがないから大丈夫、など自分だけは大丈夫と過信せず老化に伴う身体機能の変化や判断力など自分の老いと向き合うことが、重大事故を防ぐ第一歩です。高齢者の免許更新の際には免許返納も検討することは大事な家族を守るためにも大切な機会ですので慎重に考えてみてはどうでしょうか。