Pocket
LINEで送る

認知症の人は環境が変わると不穏が悪化することがありますよね。暴言を吐いたり、場所がわからなくなったり、人の認識ができなかったりと、いつもと違う言動することもあります。その時の状況で、正解は異なってくるので「臨機応変に対応しましょう」と言われてもどうしたらよいか難しいものですよね。昨日良かった対応が今日はうまくいかないかもしれません。なんで昨日は良かったのに今日は不穏で落ち着かないんだろう。不穏になる原因はいつも一緒ではありません。体調、環境、疾患、精神的要因さまざまです。不穏に対する正解はないかもしれませんが、その状況に向き合うことが大切です。不穏になり落ち着かない状態からどう対処するか一つの事例を交えてお伝えします。

スポンサーリンク

初めてのデイケアでの言動

事例

  • Aさん
  • 男性82歳
  • 要介護4
  • アルツハイマー型認知症
  • 妻と二人暮らし

散歩中に事故にあい、左大腿骨転子部骨折をし入院中にアルツハイマー型認知症の診断を受けていました。デイケアに週3回リハビリと入浴を行うことになりました。通所系のサービスをご利用されるのは初めてで、在宅でAさんの妻は初めての介護生活が始めました。

デイケアに通いだして間もない頃、突然車いす上で上の洋服を脱ぎました。そして、手拍子をし「おせんべいちょうだい」と大声を出し始めました。はじめのうちは職員も戸惑いましたが、「おせんべいは有りません」「お昼ごはんまでもう少々お待ちください」「洋服着ましょうか」などその言動に対しての対応をしていました。他の利用者様もどうしたんだろうと不安になるので、職員の隣の席に移動し様子を見ることにしました。

家とデイケアの環境の違いに注目

環境の違い

Aさんのデイケアでの様子は、他の話をしても返事がなかなか返ってこなかったり、うまくコミュニケーションがとれていませんでした。また、テーブルに置いてある消しゴムを口にくわえようとしたこともありました。誤飲の恐れがあるため、Aさんのテーブルは綺麗に整理するようにしました。

まずは行動や発言、周りの環境をしっかり観察することが大切です。その場の対応はもちろん大切ですが、Aさんの背景にも着目しました。デイケアの帰宅時に奥様にAさんのデイケアでの様子を報告し、ご自宅でどのようにすごされていますか?と尋ねると、家では終日ベッド上で過ごしているとの返事でした。でも、おせんべいとバナナが好きでよく提供しているようでした。

Aさんはおせんべいが好き、終日ベッド上で過ごしているという情報を得る事が出来ました。初めてのデイケアで自宅とデイケアの区別が難しかったのでしょうか。ご自宅で行っていることをデイケアでも行っていたと考えました。

場所が違う時は安心できる環境にあわせてみる

Aさんが在宅のように不安なく過ごしてもらうにはどうしたらよいか、職員みんなで考えました。デイケアという決められた空間ではありますが、在宅と同じ環境を作ろうという考えにまとまりました。

まずは畳部屋を使うこととなりました。レクレーションに使う小道具も置いていたので、危なくないようにクッションで回りを囲い安全に過ごせるようにしました。そこに布団を敷きAさんには車いす上ではなく畳部屋で終日過ごしていただくことにしました。
そして、ご自宅からせんべいとバナナを持参していただき、Aさんが「せんべいちょうだい」とおっしゃればせんべいを少しずつ提供しました。すると、手拍子をしたりすることなく、また、職員との会話も徐々にしていただけるようになりました。時折笑顔も見せてくださいました。

また、送迎時にも奥様と職員がコミュニケーションを図るようにしました。それから、2ヶ月たった頃には、デイケアの環境にも慣れたようでした。畳部屋で過ごす時間は入浴後の疲れた時間のみになり、他のご利用者様にも笑顔で返事をするようになりました。そして、会話中に職員に対して「ありがとうございます」と笑顔で言っていただけるまでになりました。

始めのころのAさんを考えたら嘘のようで、表情も穏やかになりました。安心できる自宅の環境にあわせて、不安要素をとりのぞくことで落ち着いたのでしょう。少しずつAさんとの間で信頼関係が出来てきたことが「おせんべいちょうだい」という自分の欲求ではなく、他者に感謝の気持ちを表す言葉、「ありがとうございます」に変わったのではないでしょうか。

不安をとりのぞいて安心できる環境作り

安心できる環境作り

不穏な利用者様を「あの人不穏だよ」で済ませず、なぜ不穏になっているのか考え、不穏の中には不安な気持ちがあります。不安な気持ちを少しでもとりのぞいて、そこから安心していただけるように、環境やコミュニケーションの図り方を見つめなおしましょう。

  • 不穏の原因となっていることを考える
  • 対象者だけでなく、周りの人ともコミュニケーションを大切にする
  • 環境をできるだけ近づける
  • 諦めない
  • 一人で考えない

認知症であってもなくても、環境が変わることで不安になるのは誰だって起こることです。その不安となっていることの原因に着目して諦めずに向き合いましょう。介護は答えがないことがたくさんあります。でも、その答えがないことで悩み、考え、介護者を成長させてもらえるいい経験ではないでしょうか。「ありがとうございます」その一言をいわれる介護者でありたいですね。

Pocket
LINEで送る