Pocket
LINEで送る

認知症の人によく見られる行動はいくつかありますが、「盗まれた」「取られた」などと被害妄想がある人の対処はとても難しいですよね。特に物がなくなった時に盗まれたと信じ込む「物盗られ妄想」では介護者を犯人と信じ込むケースもあります。毎日顔を合わせなければなりませんし、対応に頭を悩まされる人もいます。認知症により被害妄想が強く現れる人への対応方法やコツを事例と共にお伝えします。

スポンサーリンク

被害妄想への対応法

頭を抱える

1.否定せず話を聴く

本当は真実でなかったとしても、「違います」「そうじゃないです」と否定をしてはいけません。余計に混乱させてしまいます。まずは話を傾聴しましょう。

大切なのは被害妄想を間違っていると認めさせることではなく、納得して落ち着けるようになるということです。「うん、うん」「それは大変ね」と共感しながら話を聴いているうちに落ち着き、被害妄想が消えることもあります。

自身が犯人と思い込まれている時は、一度見えない場所へ離れ、違う職員が話を聴くと良いでしょう。利用者の中では実際に起きていることで、嘘をついている訳ではないということを理解しなければなりません。

2.理解を示す

本人の訴えを否定してはいけませんが、あえてその訴えに賛同する必要もありません。肯定も否定もしないということです。本人が求めているのは自分の感情や置かれている状況への理解です。

「この気持ちを分かってほしい」「話を聴いてほしい」という気持ちが強いことが考えられます。あくまでも私はあなたの味方ですよという気持ちで接しましょう。

理解を示すための手法としてタッチングの技術を活用するのも良いでしょう。手や腕、背中などに触れることで相手に安心感を与えることができます。話を聴きながら上手に織り交ぜましょう。

3.距離を置く

介護者である自分が悪者だと思い込まれている時には、一度距離を置いてみましょう。認知症の症状により被害妄想が出ている場合は、ある日急に何事もなかったかのように話しかけてきたり、数分後には忘れていたりすることもあります。

介護者も人間ですから、本当は違うのに自分が悪者にされたままにするというのは辛いかもしれませんが、自分から積極的にコミュニケーションを取ろうとするのは一度控え、距離を置くことが近道になることもあります。

4.利用者の役割を見つけて対等な関係になる

洗濯物たたみや洗い物を一緒にしたり、編み物や生け花など利用者の得意なことを教わったりして、利用者が役割を持てるようにしてみましょう。

介護は「介護する側」と「介護される側」という感覚に陥りやすいですが、本来は相互の関係であり、一方通行でもなければ、そこに上下関係もありません。しかし、接し方によっては「介護してもらうばかりで私は何もできない」と感じる利用者もいるでしょう。

そういった不安が積み重なると「バカにされている」という被害妄想につながることがあります。役割を見つけ、「いつもありがとう、助かってます」と伝えることで何もできない自分という意識がなくなる可能性があります。

5.なくしものは一緒に探す

物をどこにしまったのか忘れてしまい「財布がなくなった」「あの女に取られた」と訴える人がいます。これは「物盗られ妄想」と呼ばれ、認知症の症状で起きやすい被害妄想の一つです。

この場合は「一緒に探しましょうか」と声を掛け、利用者本人と同じ空間で一緒に探すようにしましょう。職員が見つけると「やっぱりあなたが取ったのね!」と犯人にされる可能性があります。自分が最初に見つけたときは、利用者の目に付くところに置き、利用者本人に見つけてもらうと良いでしょう。

6.質問をそのまま本人に返す

例えば「鍵がなくなった!あんたがとったんか!」と責められたとします。その場合「鍵がなくなったんですか?誰に盗られたんですか?」とそのままの内容で本人に質問します。「違います」と否定したり、「私じゃないですよ」とすぐに反論したりするのではなく、まずは一度本人に訴えを返してみましょう。

本人は興奮状態であることも考えられます。何が何だか分からないまま怒りや不安がその言葉に現れたのかもしれません。自分で発するのと相手から聞くのでは捉え方が違い、少しずつ冷静になることもあります。

実際にあった事例と対応方法

泣く

物盗られ妄想の症状があるAさん

Aさんは旦那さんを亡くされてから一人で自宅に住んでいたのですが、段々と被害妄想がひどくなってしまい、物盗られ妄想が強くなっていました。

家族は自宅での生活は難しいだろうと施設入居に踏み切ったのですが、当の本人は拒否を続けていたので、何とか連れてきた状況でした。

職員に盗まれたと思い込むAさん

「財布がない」「通帳がない」「さっき来た人が無理やり持って行った」

もちろん荷物は入居するにあたって最低限の物しか持ってきていませんので、財布や通帳はご家族が管理しています。

訴えがある度に担当として任された介護職員から事情を説明したり、居室内に「貴重品はご家族がしっかり管理されているので安心して下さい。」と張り紙をしたりして対処していました。

被害妄想はエスカレートし、なんと担当していた介護職員の事を「あいつが私の通帳を盗んだ!!」と周りの入居者や職員に対して騒ぐようになってしまいました。

他の職員は認知症で被害妄想がある事を理解しているので問題ありません。ただ、他の入居者は鵜呑みにしてしまう人もいるので盗んだと言われている職員に向かって「あんた30万も勝手に部屋から持って行ったんだって?」と、お金を返すように促す利用者も出てきたのです。

犯人にされた職員は精神的に追い詰められてしまいました。

Aさんの対処方法

①複数の職員が交代で対応する

できれば数人の職員で関わりながら対処した方が、盗んだ対象者を出さない環境になりやすいです。

担当の職員を絞ると「お金がなくなった時にばかり来る」「家族が管理していると嘘をついている」等と悪いように捉えられてしまうことがあります。

担当の職員を配置する事は悪い事ではありませんし、多くの入居施設では担当制で割り振りをしています。しかし被害妄想が強い人には返って不信感を募らせる事になってしまう事もあるので複数の職員が対応すると良いでしょう。

②入居して間もない頃は、家族に面会に来てもらう

家族の人も仕事や子育て等、忙しいとは思うのですが入居間もない時期はなるべく面会に来てもらうようにお願いしてみましょう。

認知症を患っている利用者の気持ちになれば、全く知らない人ばかりと急に過ごすようになり、色々説得してきたり自分の部屋に来てあれこれ話してきたりするわけです。

さらにはお金が無くなっているのですから、不安は募っていくばかりでしょう。

不安をいくら取り除こうと介護職員が頑張っても難しい状況になる一方かもしれません。なるべく家族に面会に来てもらい、来てもらった時に介護職員も同席するようにしましょう。

出来れば家族から介護職員が悪い人じゃないような説明をしてもらえると利用者も納得しやすいです。

③必要最低限でなく、自宅のような環境が大事

昔から使っていた椅子やタンス、棚なんかを持ち込んだり、思い出のアルバムや趣味で使用していたグッズなんか持ち込んだりして自宅のような環境を作ると良いでしょう。

住む場所が変わってもずっと使っていた自分の物がある事で、「今まで通りの生活」を感じられ精神的にも安心する事が出来るのです。

認知症の人は場所や物が変わってしまうと理解できずに不安になってしまう事が多いです。なるべく被害妄想が出ないようにするため、必要最低限の物でなく馴染みの物も持ってきていただきましょう。

否定は禁物!これまでの生活歴を確認する

バツマーク

認知症の症状により被害妄想のある人に対して絶対にしてはいけないことが「否定をする」ということです。事実と異なることであっても利用者本人の中でそれは実際に起きていることで真実なのです。嘘をつこうという気持ちがあるわけではありません。

一方的に「それは違います」と否定することはしないようにしましょう。また、「これは~なのですよ」と説得することもしないようにしましょう。「うん、うん。そうなの、それは大変ね」と傾聴し、気持ちに共感をすることが大切です。

被害妄想のある人の中には、世話好きで自分自身は人の世話になることを快く思っていない人がいます。被害妄想の症状がある人の生活歴を確認してみてください。

長女でたくさんの兄弟たちの面倒を見てきた人、母親の体が弱くて自分が母親代わりとなって家族を支えてきた人など、これまで面倒を見る立場だった人ではありませんか?「人の世話にはならない」という気持ちに隠されているのは「本当は頼りたい」という気持ちかもしれません。

本人が「バカにされている」と思うような関わり方はしていないでしょうか。これまでの生活歴を理解した上でその人そのものを認め、プライドを傷つけないような関わり方を探してみましょう。

絶対に一人で抱え込まない

手を合わせる

被害妄想が強い人は、どうしても悪い方向に物事をとらえてしまう事が多いです。事実を理解してもらう為には相当な時間が必要となります。

一つ対応を間違えれば「悪い奴」と認識されかねないので、注意して対応しなければなりません。施設に入所しているのであれば、これが日常的に起こることも考えられます。しかし、それを無視するわけにはいきません。

被害妄想が強く思い込みが激しい人の対応は難しいので、毎日のこととなれば職員も疲れ果ててしまいます。職員同士相談し、必要であれば医師やケアマネジャーも巻き込んで解決方法を探りましょう。決して一人で抱え込まないことです。利用者を守ることも大切ですが、自分の心も体も守りましょう。

さらには自分が認知症だったらどう思うかを考える事も大事です。何とか落ち着いてもらう為に行った対処法で、もしも自分がされたらどう感じるでしょうか。もしかしたらとても辛い思いをさせてしまっているかもしれません。

被害妄想がある人の対応はとても難しく、一筋縄ではいかない事が多くあります。

対処方法に頭を抱える介護職員の人は、是非参考にしてみて下さい。

 働きやすい職場環境選びがあなたを輝かせる

あなたはなぜ介護の仕事を続けているのでしょうか?

日頃から考えることが多すぎていつの間にか忘れてしまっている介護の現場で働く理由。母が祖母の介護を大変そうにしているのを見て介護職を志した人や、障害者の方が当たり前の日常を送れない現実を知って、当時の自分では何も力になれないもどかしさから介護の仕事を志した人もいるでしょう。

現在、あなたが介護の仕事を行っているのは、「人の力になりたい!」と強く思ったからではないのでしょうか?

3K(きつい、汚い、危険)と言われていることを知った上で働き続けているあなたは高齢化社会である日本の誇りです。

介護業界の主役は現場で働くあなた自身です。

あなたをキッカケに、「介護の仕事って楽しいんだよ」「介護ってかっこいいんだよ」と思ってもらえる仲間が増えることを祈っています。

まずはあなた自身が輝ける場所に行きましょう。

世の中は、熱い想いを持って介護の仕事に取り組むあなたのような人材を求めています。

介護求人ナビ口コミ

Pocket
LINEで送る