Pocket
LINEで送る

認知症の利用者だから仕方ないと対応を諦めていませんか?認知症の症状は、記憶力の低下や見当識障害(場所や時間の理解が障害される)など数多くありますが、問題行動と言われる一つに「暴言、暴力」が挙げられます。

私が介護福祉士として老人ホームに勤務していた頃、暴言暴力の症状が目立ってみられる利用者に職員が頭を悩ませていました。しかし、職員一人一人が心にゆとりを持つことで、状況が改善できたんです。その時、どのような対応をしたのかをお伝えします。

「助けてー殺されるー!」と暴れまくる

私が就職した際、Aさんは既に「暴れん坊」で有名でした。

Aさんは自分で移動できず、食事と入浴以外は主にベッドで過ごしていました。排泄はオムツで、定時交換です。排泄ケアや入浴、移乗の際はとにかく大騒ぎ。

「誰か〜!私を殺そうとする〜!助けて〜!警察〜!!」

と大声で叫びながら、介助に入る職員を殴り、噛み付いて蹴るなどとてもアグレッシブです。

関節拘縮(腰や膝等、体を動かさない事で関節が固まってしまう状態)を微塵も感じさせない、ダイナミックで力強い動きです。食事はなんとか自分で食べられましたが、ときどき大声で怒鳴り散らします。そのため、Aさんの介助は複数人で気合いを入れて行っていました。

食堂でこうなってしまうと、他の利用者様も怖がったり不穏になったりするため、すぐに居室へ戻ってもらうこともありました。

ただAさんはいつも暴れる人ではありません。お掃除のため居室に入り、「今日はいい天気ですね」と話しかけると「本当だね」と穏やかに答えてくれます。若い時は看護師をしており、「注射は得意でした?」と聞くと「まあまあね」と笑顔を見せてくれることもあります。

なぜ「殺される」と騒ぐのか、気持ちに寄り添って考えた

なぜAさんは介助を「殺される」と思うのか。殺されると思っているから抵抗しようと暴言・暴力が出てくるようですが、殺すマネごとは冗談でもしていません。

理由として考えられるのは、

  • これから何をするのか、うまく伝わっていない
  • 数人で向かうから、恐怖心がかき立てられる
  • 介助中、体の痛みがあり、恐怖や辛さを感じている
  • そんな気分じゃないのに、強制的にさせられる

介助に入る前は、「これから新しい下着に替えましょうね」「お風呂に行きましょう」など何を行うのかを伝えるのが常識とされています。ただ、認知症の程度によっては言葉だけでは理解出来なくなることがあります。そのため、声掛けの意味をなしていないことがあるのです。

暴れるから複数人で対応。それが裏目に

何が起こるか理解できず、複数人が自分を取り囲んだら、怖いと感じるのも無理はありません。特養の施設生活の特徴として、食事や入浴など自分のタイミングで行えないことがストレスになってしまったのかもしれません。

また、関節拘縮が進行している人は、動かす角度によって痛みが伴います。介助の仕方によって痛みを最小限に抑えられるかもしれませんが、拘縮が進行していたり、力が入っていたりすると痛みを避けるのが難しくなってしまいます。自分の体の状態を知っていて、介助の痛みは仕方ないと理解できれば我慢もできるかもしれませんが、「痛めつけられている」と勘違いする可能性があります。

心のゆとりで全員が変わった!時には役者になることも大事

これらの事を踏まえ、Aさんと職員のやりとりを観察することにしました。

すると、職員の中に声掛けをきちんとせず介助に入ろうとする者がいました。(早口で小声で、耳の遠いAさんには聞き取れないくらいの声掛け)それで布団をバッとめくるので、ハッと驚いた表情を一瞬見せ、直後に「助けてー!」と叫び、両手を振り回し始めました。

介助中は「痛い!」と言っていることにも気付きました。

排尿がないのに、オムツを開けてチェックする事もありました。(当時、布オムツを使用していたので、開けてみないと分からなかったのです。)食事中、ご自分で食べている所に介助をすると怒る場面も見られました。

良くない点に気づいてから対応策を考えた

改めて、介入の仕方を職員間で話し合い、対応策をまとめました。

  • まずは一人が分かるように声掛けをする(にこやかに!)
  • 声掛けの工夫…元看護師と言う部分を活かして、「腹圧のチェックってどうやるのか教えて!」と言って自分でズボンを途中までおろしてもらう
  • 排尿の間隔を調べ、タイミング良くオムツの交換を行う
  • 食事は出来るだけご本人の力で食べてもらう
  • 1日1回は、関節をのばすストレッチを行う
  • こまめに話しかけ、顔や声を覚えてもらう(何となくでも良いので・・・)

少しずつ改善へ。変わったのは職員のほうだった

結果としては、残念ながら全て上手く収まったとはいきませんでした。やはりオムツ交換や着替えの時は手が出ます。ただ、頻度は少し減り、移乗の際は2、3人で暴れるAさんを「えいやっ!」と力を入れて持ち上げていたのが、ぎゅーっとつかまってくれるようになり、一人で介助できるようになりました。

しかしAさん以上に変わったのが、なんと職員の方でした。元々、数人いないと介助できなかったので協力体制はできていると思っていましたが、気持ちはバラバラだったのかもしれません。みんなで原因を追求し、Aさんとの距離を縮める努力をしたせいか、心のゆとりがうまれたように感じられました。「警察〜!」と叫ばれたら、1人の職員が「はい、私が警察です、どうしました?」と冗談を言って場を和ませたり、笑顔で介助に入れることが増えました。

偏見もレッテルも持たない「みる」技術

病気によるもの…とはいっても、介護する側も人間です。利用者の暴言・暴力により心身ともに傷つくこともあります。ただ、最初から「あの人は危ない、どうしようもない」とレッテルを貼ってしまわない努力は必要です。何かしら原因があるなら、ちゃんと対処法があります。

全てが改善されなくても、その人が変わらなくても、別の何かが変わるかもしれません。諦めずに利用者さんと向き合う努力を忘れないでください。目先の大変さだけでなく、その原因にも目を向けられる介護職員が増えるように願っています。

Pocket
LINEで送る