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介護予防計画書は、担当する本人の状態に合わせて作成されます。運動機能不全、閉じこもりなど、本人によって課題は様々です。介護予防計画書には作成ルールがありますが、正解は存在しません。本人ひとりひとりに合わせた計画書の作成が求められてます。

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介護予防計画書の文例とは

介護予防計画書は、要支援1または要支援2の介護認定を受けた人が、介護保険サービスを利用するときに個別に作成する計画書です。作成は地域包括支援センターの計画作成担当者がおこないますが、どのような計画にもとづいてサービスが提供されるのか、具体的な本人像を想定して項目ごとに文例を見ていきます。

例として挙げる利用者の各領域・状態

介護予防契約書を作成するAさんの状況
介護予防契約書を作成するAさんの状況

Aさん(78歳女性)は1か月前、自宅で転倒して右大腿骨頸部を骨折し、入院して人工骨頭置換術を受けました。リハビリを受けて日常生活は自分で過ごせるまでに回復したため退院しました。

介護保険の申請は済んでおり要支援2の認定を受けていますが、介護サービスは利用したことがありません。長男夫婦は同じ敷地に暮らしています。日中は就労しているで、本人は一人で過ごしています。

認知症はありませんが、今後いきがいの畑、花作りができるか不安な気持ちになっています。退院後、計画作成担当者は、Aさんの家を訪問して生活課題やニーズを聞き取り、介護予防計画書を作りました。

各項目の記入

介護予防計画書の様式です。1枚の用紙に本人情報、アセスメント、プランを掲載します。介護予防計画書は、作成担当者と本人、その家族が相談しながら作成します。

上段には本人の氏名や認定情報が記載され、一日、一年の目標が設定していきます。すべて記入したら、本人、家族、関係者と担当者会議を開催して、本人による署名、押印をおこなってから、サービスの提供が開始されます。

アセスメント領域と現在の状況

アセスメント領域と現在の状況
アセスメント領域と現在の状況

計画書の左にある①から④がアセスメントの領域になります。

アセスメントとは、情報収集をおこなって、課題や支援のヒントがないか分析をおこなうまでの一連のプロセスをいいます。聞き取った情報を項目に記載し、現時点での課題を分析します。

アセスメントで情報収集をおこなう4つの項目は、ICFの生活機能分類とおなじ視点で設定されており、健康管理や活動、参加を促す項目に沿ってアセスメントをおこないます。

介護予防計画書のアセスメント項目 ICFの生活機能分類
運動・移動について 心身機能・構造
日常生活について 活動
社会参加・対人関係・コミュニケーションについて 参加
健康管理について 健康状態

アセスメントの各項目は、できない事だけではなく、できる事も記載します。そうすることで、本人ができないことをサービスが支援するのではなく、できる力を活かすことで、できない力を補うことが可能になるからです。

運動・移動について

運動機能の状態や移動している状況を記載します。

歩く、走る、昇降する、乗り物を操作する、交通手段による移動の現状を記載します。

【Aさんの場合】

変形性の膝関節症があるので、膝痛がありますが、室内は伝って移動することができます。屋外は転倒が怖く、20メートルほどしか歩けません。

右大腿骨頸部の手術を受けてからは、しゃがむ、足をくむなどの動作は禁止されています。

日常生活(家庭生活)について

家事動作について記載する項目です。

買物、調理、掃除、洗濯、ゴミ捨て、入浴などの日常生活の動作を確認します。

自分でできているのか、誰かが手伝っているのか、手間や手段を具体的に確認します。

【Aさんの場合】

椅子に座って過ごすことが一日の大半を占めています。動作を制限されていますが、調理、掃除、洗濯などはゆっくりおこなえますので、サポートの必要はありません。床に物がおちると拾えないので、マジックハンドを使い始めました。買い物やゴミ捨ては長男夫婦が代わりにおこなってくれています。

浴室内に掴まる所がありませんが、一人で入浴したい希望があります。

社会参加、対人関係・コミュニケーションについて

人との交流がどうなっているか、という項目です。家族や近所との人間関係が保たれているか、仕事やボランティア活動、町内の行事などへの参加状況、家庭内や町内での役割の有無を確認します。

【Aさんの場合】

人と話すのが好きで、以前は一日のほとんどを畑で過ごしてきましたので、退院後は家の中で何もすることがありません。近所の人に自分の姿を見られるのが嫌なので、散歩も行かず、また福祉サービスも利用する気はありません。

 

健康管理について

服薬や定期受診の状況を確認する項目になります。飲酒や喫煙等の嗜好や、食事や運動など健康面について必要と思われる内容を確認します。

【Aさんの場合】

部分入れ歯を使用しています。朝、夕の歯磨きは自分でできます。1ヶ月に1回受診がありますが、長男が送り迎えをして出かける事ができています。服薬は60歳からコレステロールの内服治療をしており、数値は正常と言われています。

本人・家族の意欲・意向

アセスメントで確認した情報について、本人、家族の認識や意向を記載する項目です。以前と身体状態が変化している場合は、現在の心境や意向を確認して、今後の援助方針を決める際に参考にします。

計画作成担当者は、本人が現状を受け入れられず消極的な言動がある場合、今までどおりに続けたいことや要望があれば、支援計画で改善提案や目標に掲げ、意欲を引き出す工夫をします。

【Aさんの場合】

(本人)膝の痛みがあります。大腿骨の手術を受けましたが、できないことが増えました。
今まで生きがいだった畑や花作りができなくなったことが悲しい。しゃがめないのでトイレやお風呂も大変だと思っています。薬は忘れないように飲んでいます。毎月病院に通って、再発しないようにしたいです。(長男)まだまだ元気に頑張ってほしい。隣に住んでいますが、共働きなので日中は母一人になっているのが心配です。畑づくりをさせてあげたい。通院には付き添っていくようにしています。こけないように気を付けてほしい。(長男の妻)夕食は私が作って3人で食べています。押し花を趣味でしているので、一緒にできたらいいと思っています。

領域における課題(背景と原因)

生活上の課題に対して、背景や原因を分析して、担当者が記載をする項目です。

課題の有無があるのかを検討して、有無どちらかのボックスにチェックを入れます。

健康状態や心理状態、物的・人的環境や経済状況など多角的に聞き取ります。本人が訴えている課題の原因がどこにあるのか、今後どういったリスクが予測されるのかを記載します。

本人が訴えていなくても、専門的な視点で課題があれば記載します。課題がない場合でも、「ない理由」があれば記載して本人・家族と共有します。

【Aさんの場合】

(運動・移動について)
「有」変形性膝関節症による足の動かしづらさと、大腿骨の手術後による動作の制限があります。活動量が減ることで、下肢の筋力低下が進行する恐れがあります。

(日常生活について)
「有」しゃがむ姿勢が取れないので、足元に手が届きません。浴室内に掴まる所がないので、一人で入浴するのに転倒の不安と、立座り動作に負担があります。

(社会参加・対人関係について)
「有」外出する方法を工夫すれば、今まで通りの行動範囲で生活し、近所の人とも交流できます。

(健康管理について)
「無」定期的な受診を忘れず、服薬管理を自分でしましょう。

総合的課題

総合的課題の項目では、本人の生活全般での課題ついて、背景や原因を分析し、各領域にかかわる共通課題を優先度の高い順に列挙します。

すでに表明された課題について順位を検討しますので、ここで新しい課題が表出されることはありません。

消極的な記載にならないように、「~なので、~の必要がある」「~ですが、~すれば可能になる」というポジティブな表現で記載します。ポジティブな表現を使う事は、本人が「やってみよう」「そうなりたい」と目標に対して、前向きに行動を起こすことにつながります。

Aさんの総合的な課題を次の3つに特定し、記入しました。

  1. 生活意欲が低下しないように、生きがいを見つけましょう
  2. 転倒による不安もありますが、福祉用具を使えば、安全に安楽に歩行することが可能になります
  3. 浴室内につかまる所があれば、今までどおり自分で入浴することができます

優先度の高い順に課題番号を振っておくと、番号ごとに対応する支援やサービスが見やすくなります。

アセスメントのまとめ

アセスメントに不備があると、目標に関係のないサービスが位置づけられたり、本人ができるのに支援が提供されたりすることで、自立を阻害してしまいます。

そうならないように、目標や支援内容が本人の課題やニーズに適しているかどうか、情報収集と分析が重要になります。

課題に対する目標と具体策の提案

設定される目標は、専門的な視点から示す提案となります。

生活機能の低下を防ぐことができるような対策だけではなく、できる力をさらに引き出せるような工夫など、様々な角度から具体的な案を記載します。

【Aさんの場合】(総合的な課題の番号に準じています)

  1. 土に触れる生活はこれからもできます。プランターなどで花作りはできますし、長男の奥さんは押し花をしているので、一緒に作品作りをしてはどうですか?
  2. 歩行器を介護保険で借りられます。操作も簡単で椅子代わりにもなるので、散歩している時に疲れたら休めます。天気の良い時は近所を散歩して、気晴らししてはどうですか?
  3. 浴槽の縁に取り外しできる手すりをつければ、立ち座りが楽におこなえます。介護保険の福祉用具購入対象品で定価の1割負担で購入できます。1人で入浴できるように環境を見直しましょう。

具体策についての意向 本人 ・ 家族

アセスメントにより導き出された総合的課題について、計画作成担当者が本人、家族に具体策を提案し、そこで得られた本人と家族の意向を記入する項目です。

ここで合意が得られれば、目標設定につながります。

【Aさんの場合】

1.(本人)花作りは以前もしていたのでやりたいです。押し花もやってみたい。
(長男)プランターでできるように準備してみます。脚をつけて高くしてみます。
(長男の嫁)花作りを一緒にしながら、できた花で作品をつくってみます。
2.(本人)歩行器を介護保険制度で借りられるのなら、一度試したいです。とじこもってても気持ちが沈むだけです。
(長男)気に入ったら購入も考えますので、本人に選ばせてください。
3.(本人)毎日入浴はしませんが、手すりがつけられたらお願いしたいです。
(長男)母が入浴する時には、毎回私が手すりの取り外しを手伝います。

今までの内容を計画書に記載するとこのようになります。

参考Aさんの介護予防計画書

目標

計画作成担当者と本人、そして家族で、目標に記載する内容をすり合わせします。これは本人自身が心配していることや楽しみに思っている順に掲げます。こうなりたい、がんばれそうだという内容であれば、取り組む意欲も高まり、自分のもっている力をいかせることにつながります。

【Aさんの場合】

  1. プランターで花を育て、押し花作品をつくりましょう。
  2. 体調観察をしながら、身体を動かす習慣をつくりましょう。
  3. ひとりでお風呂に入りましょう。
介護予防計画書の目標を記入する3箇所
介護予防計画書の目標を記入する3箇所

介護予防計画書には目標を記入するところが3ヶ所あります。

ここで作成する目標は、全体図の②の項目です。各事業所もこの目標達成に向けてサービスを提供します。

介護予防計画書は、本人自身が自立への意欲を高められるように①1日の目標、③1年の目標が設定されています。

3つ目標にはそれぞれ設定する際ポイントがあります。

①に記載する「一日の目標」は毎日コツコツできる小さな目標(日課を活用する)にします。

例:午後のテレビ体操を一緒にしましょう

②のケアプラン目標は3ヶ月から6ヶ月の目安で達成できる内容にします。

③に記載する「1年の目標」は、来年こうしていたい、という長い期間を意識し、①、②を積み重ねた先にある目標を設定します。
例:花づくりを生きがいにしたい

支援計画

計画作成担当者は、本人のできる力とあわせて、公私のサービス内容や活用できる資源を把握しておく必要があります。サービス情報を把握しておかないと、本人のできない部分にどのような内容のサービスが適切か、計画書に位置づける事ができません。

目標によっては、一つの目標に複数のサービスを位置づけることがあります。例えば「トイレに自分でいける」という目標を掲げた時に、身体機能へのリハビリと、トイレ内の手すり設置をそれぞれ計画書に位置づけて実施し、両方の達成を終えて、一つの目標がクリアできる場合もあります。

目標についての支援のポイント

計画作成担当者が、サービス提供者に向けて、「この人の支援のポイント」を具体的に紹介する項目になります。全ての目標に対して必要ではありませんが、要望や注意事項、配慮などを記載します。例えば、「車酔いをするので送迎時注意です」「ヘルパーは同性希望します」といったことも本人の同意のもと記入しておくと、気持ちよくサービス利用することができます。ただし、サービス提供者が対応できる範囲にしておきます。

【Aさんの場合】

  1. 長男の奥さんに押し花を教えてもらいましょう。作品ができたら、地域包括支援センターで飾らせて下さい。
  2. 散歩用に折り畳みができて、椅子代わりにもなる歩行器をレンタルしましょう。
  3. 長男夫婦と夕食を食べ終わった19時ごろに入浴します。お風呂が終わるまでご夫婦のどちらかが居てあげてください。

本人のセルフケアや家族の支援、インフォーマルサービス

目標と支援のポイントを記入したら、セルフケアやインフォーマルサービスの検討をおこないます。行う理由としては、介護保険の基本理念が、本人の有する能力に応じて、自立した日常生活を送れるように定められているからです。

また、目標に応じた支援を考える際、計画内容を公的サービスのみで作成しがちになります。その理由は、計画作成担当者にとってインフォーマルサービスよりも公的サービスの方が、調整しやすく、気軽に利用できるからです。しかし、介護予防計画書の様式は、まず本人に何ができるのか、家族や近所の協力はないか、といった自助、共助の支援を優先するために、インフォーマルサービスの項目が設置されています。

【Aさんの場合】

1.長男→しゃがめないので、プランターは腰の高さまであげてください。
長男の奥さん→押し花のやり方を教えてください。
2.本人→疲れたら、歩行器を椅子代わりに休みましょう。コースは郵便局、農協をまわる300mコースです。
3.長男夫婦→入浴が終わるまでの見守りと声掛け

介護保険サービスまたは地域支援事業

インフォーマルな協力者で対応可能な資源がない場合、介護保険や地域支援事業のサービスを検討し、該当するものがあれば記入します。

本人、家族から同意が得られたサービスのみ記載します。

サービス種別

利用するサービス種別を記入します。介護保険サービスの種別や地域支援事業として市町村独自のサービス名を記入します。

事業所

サービスを提供するサービスの正式名称を記載します。

介護保険以外の公的サービス、地域の人、本人についても記載します。

期間

期間についての項目は、認定の有効期間内の日付で終了期間を設定します。なぜなら、介護予防計画は要支援の認定期間内で目標を設定し、サービスを提供するためです。

【Aさんの場合】

1.(サービス種別)なし(事業所)本人、家族、地域包括支援センター
(期間)令和○○年○○月○○日 ~ 令和○○年○○月○○日
2.(サービス種別)介護予防福祉用具貸与<歩行器>(事業所)株式会社○
(期間)令和○○年○○月○○日 ~ 令和○○年○○月○○日
3.(サービス種別)特定介護予防福祉用具販売<浴槽手すり>(事業所)株式会社○
(期間)令和○○年○○月○○日 ~ 令和○○年○○月○○日

目標以降の内容を計画書に記載するとAさんの計画書はこのようになります。

参考Aさんの介護予防計画書2

利用者の目標達成のために

介護予防計画書が本人の目標達成につながるためには、本人自身がこうなりたいという内容が反映され、自らの意志で取組める内容になっているかが重要になります。

ですから本人以外の意見にかたよったり、作成担当者だけで進めてしまうと、本人の意欲が下がり、結果的に今よりも生活の質が低下しかねません。

本人が望んでいる目標を計画に基づいて達成するためには、次の3つのポイントが重要です。

・「心身機能・身体構造」「活動」「参加」「個人・環境因子」と多角的な視点で情報収集と分析をおこなう
・本人の訴えを尊重しながら、専門的、客観的視点で優先課題を記入する
・本人のできる力を活用することを忘れない

計画作成担当者は介護予防計画書を作成して、役割が完了するわけではありません。ここから支援者の一人としてスタートをします。介護保険制度の運営基準では、支援者はマネジメント開始後、毎月1回の電話モニタリングと3ヶ月に1回程度の訪問が義務付けられています。

その理由は、本人の生活状況に変化がないか確認し、新しい課題が発生していないか、計画が予定通り進んでいるかを評価する責任があるからです。

計画作成担当者は、本人のこうしたいという望みを常に確認しながら、その実現のために支援チームをマネジメントする中心となります。

ですから計画作成担当者にとって介護予防計画書は、チームが目指す旗印にもなりますので、言葉の一つ一つに本人、家族の気持ちをこめて作成する姿勢がとても重要になります。

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