腰痛は介護職員の職業病。あなたもそう思っていますか?
介護職員が腰痛になり、労災として認定してもらおうと労働基準監督署で申請します。すると、それまでの腰痛の有無やどんな動作で腰痛が発生したのかなどを問いただされ、かなり厄介な手続きになります。
つまり「介護=腰痛」が一般的に浸透していて「介護職員の腰痛を労災認定し始めると、労災給付費用も手続きも膨大化してしまう」と労基署も知っているのです。
しかし正しい介護手法を用いれば、決してそうではありません。そのためのポイントは、ズバリ「ボディメカニクス」をうまく使うことです。
この記事では、
- ボディメカニクスとは?なぜ腰痛を減らせるのか
- 実際に、介護現場で意識されているのか。今後の動向は?
- 介護現場でどのように活用できるのか
ということをお伝えします。
目次
ボディメカニクスって、新しい介護の考え方なの?
ボディメカニクスとは力学的な観点からアプローチされたものであり、簡単にいえば「人間の骨格や筋肉などを利用して、最小限の力で利用者を支えたり、動かしたりする技術」のことです。
人が前かがみになり、30kgの利用者を完全に抱え上げるとしたら、腰には倍の60kg以上の負荷がかかっています。ボディメカニクスを活用すれば、相手の機能や力を借りられますので、腰への負担は軽くなるのです。
ただ骨格や筋肉だけではなく、生活の中で無意識に行っている動作を介助にも適用することも、ボディメカニクスの大切なポイントです。
腰痛を減らせる!?ボディメカニクスの極意
介護職員の腰痛の原因の多くは、無理な体勢での移乗や移動動作の介助です。
例えば、ベッドで端座位をとっている利用者を、ベッド脇にセットした車いすへ移乗しようとして、利用者を抱えた状態で腰をひねったころにより痛めてしまう…など。
腰痛を起こす原因は、利用者を持ち上げ、自分の腰をひねっているところ。
これらは、相手の力や残っている機能、つまりボディメカニクスを上手に活用すれば減らすことができるのです。なぜなら、基本的にボディメカニクスの中には「ひねる・ねじる・持ち上げる」という行為はないのです。
ですから、ボディメカニクスは腰痛を減らす極意だといえます。
ボディメカニクスを知っているのに腰痛が減らないのは、なぜ?
新任職員には、介護の“コツ”のようなことは教えてくれます。しかし、ボディメカニクスまで教えてくれる事業所は、あまりないのです。
ボディメカニクスは、比較的新しい介護の考え方ではありますが、そうはいっても介護保険制度が始まる平成12年(西暦2000年)には、すでに提唱が始まっていました。
今でさえ介護職員の腰痛が後を絶たないのかというと、まだまだ実際の介護現場でボディメカニクスが浸透していないからだといえます。しかし、このまま腰痛に苦しむわけにはいきません。どうせ介護職員として働くなら、できるだけ痛みや苦しみは減らして楽しく働きたいものです。
具体的な活用方法をお伝えします。
移乗介助は座る位置、肩幅、十分な前かがみで腰痛撃退!
実際に、車いすへの移乗介助を例に5つのポイントに絞ります。このポイントは、わたしたちが日常生活で無意識に行っている動作になっていますので、ぜひ記事を読みながら自分で試してみてください。
ポイント1:床に足底がつく場所へ座ってもらう
腰痛にならない移乗介助には、相手の力や残存機能を活かすことが必要です。まず、足底が床に着く人であれば浅く腰かけてもらい、足を着けます。
もちろん、浅くなりすぎてベッドから落ちないように注意してくださいね!
ポイント2:脚を肩幅に開いてもらい、利用者の体に自分の体を密着させる
椅子から立ち上がる時、脚を閉じて「気をつけ!」のような姿勢のままで立ち上がる人はいません。
利用者の脚に、体重をかけて立ち上がってもらうために、肩幅に開くことは必須です。
次に利用者の脚の間に自分の脚を入れさせてもらい、膝を曲げて体勢を低くし、自分は利用者の腰の後ろに手をまわします。可能であれば利用者には、介助者の首の後ろに手をまわしてもらい、組んでもらいます。
ポイント3:十分に前かがみをしてもらいながら立ち上がる
立ち上がってもらう介助をするのですが、利用者が前かがみ(おじぎ)をしながら立ち上がるのをイメージし、利用者の頭がそれと同じ曲線を描くように介助します。
介助者の動きとしては、一歩後ろへ下がってから上へ伸びるようなイメージです。
ポイント4:車いすに座れるところまで踏みかえてもらう
利用者には、できるだけ自分の体重を足にかけながら、車いすに座れる位置まで踏みかえて(ステップ)もらいます。当然、踏みかえるために最初に動かす足は、健側の足となります。
もしも踏みかえることができなければ、立ち上がったまま一緒に一歩前へ出てもらい、後ろへ車いすを移動してもらうようにします。
踏みかえることができない利用者の場合には、スライドボードなどを利用して、利用者の体を抱きかかえずに「横に滑らせて」腰への負荷を減らします。
ポイント5:座る時には膝を落とす
車いすに座る介助をする際には、自分は膝を伸ばしたまま利用者だけに座ってもらうのではなく、自分が膝を曲げて重心を落とすのと同時に利用者にも座ってもらうようにします。
ボディメカニクスの基本の一つに「重心を低くする」ということがあります。これは、その適用です。
ボディメカニクスは浸透するの?
腰痛予防につながるボディメカニクスですが、今後、もっと介護現場に浸透していくことが望まれています。介護の専門学校や介護職員を対象とした研修会では、当たり前のようにボディメカニクスが扱われているのです。
一人でも、十分活用できる介護手法なのですが、やはり施設全体で取り組んだ方が、浸透も成長も早いという特徴があります。
腰痛は介護の職業病ではない!
ボディメカニクスを正しく用いれば、職員の腰痛を予防するだけではなく、介助される利用者側も楽です。
利用者が自分の残っている機能や力を用いながら、歓びをもって介助を受けることができれば、自立支援につながり、介助する側の身体的な負担も少なくなっていきます。
このプラスの連鎖が繰り返し働いていけば、決して「介護=腰痛」が当たり前ではなくなります。
「腰痛は介護職員の職業病だね」と言われなくなる日を、わたしたちから作っていくことができるのです。