介護の仕事をしていれば当たり前に行う「入浴介助」。しかし、介護の経験がない人からしてみれば、他人を入浴に誘い、更衣を手伝い、身体を洗うのを手伝ったりすることは、決して当たり前のことではありません。
そのため、なかなか上手に入浴介助ができず「苦手だ」と思ってしまう人が多いことも事実です。しかも入浴介助は、日常生活ではほとんど行わない行為なので、自分で練習して苦手を克服するということも困難なのです。
しかし、いつまでも入浴しないでいると身体的にはよくありません。空気中には「常在菌」といって、常に存在している細菌がいて、抵抗力が衰えている病気の人や高齢者には悪影響を及ぼします。入浴して皮膚を清潔に保ち、肌にある程度の潤いをもたせないと、皮膚にいる「常在菌」が悪さをし、細菌感染やカビを発生させることもあるのです。「カンジダ」という皮膚炎も、衛生状態が不良の時に発生しやすい病気の一つです。
この記事では、
- 高齢者が入浴する目的と、スムーズに入浴介助するための準備で行えることは何か
- 身体をスムーズに洗う手順や、入浴介助で注意するポイント
- 入浴を恥ずかしがる利用者さん。どのように羞恥心に配慮しながら対応すればよいか
ということをお伝えします。
目次
高齢者が入浴する目的とは?
“〇〇さん、お風呂にいきましょうか”こう誘って、すんなり動いてくれる利用者さんなら、困ることはありません。認知症の方を含め、なかなか素直に応じてくれないから困ってしまうのです。入浴を拒否する人がいたら、その人の性格も考慮しなければならないのですが、元気だったころ、どのぐらいの頻度で、どんなお風呂に入っていたのかを日常会話の際に聞いておくとよいでしょう。
というのも一般的には、入浴する主な目的は身体を清潔に保つため、心身ともにリフレッシュする機会をもつためです。しかし、高齢者の場合には過去の“入浴歴”から目的が違うかもしれません。例えば、今の90・80・70代の方は、戦争や戦後の苦しい時代を経験しています。この時代、お風呂に入ることは毎日当たり前に行えることではありませんでした。お客様が来るから、あるいは逆に客として訪問していて「ようこそ、お疲れ様でした。汗でも流してくださいね」というように、入浴は特別なことだったのかもしれないのです。
もちろん、最近までそんな生活をしていたわけではありませんが、認知症の方は特に、高齢者の場合最近の生活よりも、昔の生活習慣の記憶が呼び起されることがあります。となると“お風呂に行きましょうか”と誘われても「なんで何もないのに風呂に入るんだ!」とか「どうして誰かがいるところで裸にならなきゃいけないんだ!」となってしまうのです。
スムーズに入浴をしてもらうために準備できることは?
多くの人が、お風呂に入るのは寝る前か、夕食を食べた後や食べる前など、夕方から夜にかけてではないでしょうか。ところが、介護施設で入浴に誘われるのは真昼間、太陽が出ているうちです。自分がおくってきた生活習慣からはかけ離れた入浴をしなければなりません。
そこで、単にお風呂の準備をするのではなく、入浴に行きたくなるような雰囲気やシチュエーションをつくることが重要です。例えば、
- 昔の人たちは銭湯に行った経験がある人も多いので、既に入浴を済ませた方が「さっぱりした~!気持ちよかったぁ!」と話をしているのを聞く。
- 脱衣場を銭湯風に工夫してみる。
- 少し暗めの遮光カーテンで、明るい太陽の日差しを工夫する。
- お風呂上りの牛乳やマッサージチェアを用意してみる
- 日頃から仲の良い利用者に、一緒に誘ってもらう。
これらの習慣は地域によって特性があります。ですから自分達の地域の特性をよく理解しておくことと、地域のお年寄りがどんなお風呂の習慣があって、その習慣に近づける工夫をしてみること。これが、スムーズな入浴を促すコツです。
ただし、このようなことは介護を始めたばかりの人だけが工夫することは難しいため、その場合には、声掛けの仕方やタイミング、声を掛けるスタッフなどを先輩の手本をみながら工夫することも有効な手段です。
あるいは「わたしは新人なので、どうやってお風呂のお手伝いをして良いか教えてくださいませんか?」と利用者さんの親切心や指導したがる気持ちをくすぐるのもよいでしょう。
スムーズに身体を洗うためには、ルールにこだわらない
先輩からどのように指導されるか分かりませんが、介護福祉士の資格を取得しようと勉強する場合、身体の洗う手順なども学ぶことになります。特に寝たきりの方の清拭などにおいては、洗う手順で感染予防にもなりますので重要です。
ただ自分で歩ける方とか、一部介助で入浴できる方の場合には、経験上、身体を洗う順番などのルールはありません。というか、その方が長年洗ってきた方法が「ルール」です。心臓から遠い足先や手先からお湯をかけて、という方法もありますが、その人がビックリしない方法で行うことが重要なのです。もちろん、心不全などがあって医師や看護職からの指示がある場合には従いますが、利用者さんが嫌がる場合には、医療職に相談することができるでしょう。
入浴介助を行うときに注意するポイント
服の脱衣・洗身・身浸などは、事業所のやり方に準じます。もちろん、洗身の際に利用者さんの肌にキズをつけないというようなことは、最低限守らなければならないことです。またシャワーをかけたり湯船に入ったりする前に、お湯の温度をスタッフが自分の肌で確かめるとか、湯舟には足から入れてもらうということも最低限のルールでしょう。
大切なポイントは「利用者さんの気持ちを優先する」ということです。特に入浴を拒否しがちな利用者さんの場合、気持ちがのらなければ体も動きません。せっかく入浴しようとしたとしても、急がせたり、相手がやりたいことを遮ろうとばかりしてしまうと、途中で嫌になってしまいます。また、気持ちでは入浴したくても、体が思うように動かないものも高齢者の特徴です。この場合には、体が動くのを待つようにします。
子どもを教える時には「心が動くのを待つように」と言われますが、高齢者の場合には「体が動くのを待つように」しましょう。
入浴を恥ずかしがる利用者さんにはどのように配慮できる?
誰しも、他人にじーっと見られながらお風呂に入るような経験はありません。高齢者の場合は特にそうでしょう。そのため、脱衣場にお風呂に入らずに服を着ている人(スタッフ)がいる中で服を脱ぎ、入浴することに羞恥心を覚える人もいます。
どうしても恥ずかしい人の場合には、プライバシーカーテンやパーテーションなどを利用して周りから見えないようにするとか、入浴介助を一番最後に回すという配慮が必要です。またスタッフの支度が気になる方の場合には、スタッフも肌の露出の多い水着のような恰好で介助することで羞恥心を和らげることもできます。
その方が、何を恥ずかしいと思っているのかを探ることも重要です。裸を見られることなのか、身体を洗う時に陰部やお尻を洗うのを見られることなのか、女性の場合は胸が小さいことや、ぽっちゃりしている身体を見られることなのか、などです。同性介助は介護の基本ですが、事業所によってはどうしてもできない場合もあります。それでも、ぽっちゃりを気にしている利用者さんにはぽっちゃりタイプのスタッフが対応することなどで、羞恥心を和らげることもできます。
時々、入浴に対してどう思っているのか、どのように入浴したいのかを聞き取り、可能なことは改善していくことも心のケアに役立ちます。「自分のことを気にかけてくれているんだ」と感じるだけで、人は、心が安らぐものです。
スムーズな入浴介助は高いハードルかもしれないが、実現可能!
新人介護職にとって、スムーズに入浴介助を行うことは結構高いハードルです。しかも相手が、入浴を拒否するような利用者さんや、認知症があって入浴するための心や体の準備をなかなかしてもらえないような利用者さんの場合は、特にそうでしょう。
しかし、一人ひとりの性格や生活歴、入浴習慣などを考慮することができれば、高いハードルもクリアしやすくなります。また介護の仕事において、大まかなセオリーはありますが介護手法はスタッフそれぞれで特徴があっても良い世界です。
「あなたらしいね!」と利用者さんから言われるような入浴介助ができるようになると、嬉しいですよね。そのためには、利用者さんのことを考えた工夫と経験が必要です。ぜひ、あなたらしい入浴介助方法を見つけてみてください。
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